この時代にわざわざ分厚い手帳やノートを持ち歩く人は、変人に見えるかもしれない。
だって、スマートフォンやタブレット端末ならばインクがにじんで字が読めなくなることも、ページが足りなくなることもない。いつでもキレイに書き直せる。一方、手帳やノートは重いし、かさばる。修正も厄介で、非効率極まりない。
そうだとして、でも「効率」というのがいつの場面でも優先されるものではない。
アナログを選ぶ理由
たとえばランニング。屋内のスポーツジムを使うと雨でも暗くても寒くても走れるのに、あえて悪天候を覚悟して街を走る人は多い。
ジムのランニングマシーンは「10kmを走った分の運動をする」という役割を最短で果たせる。逆に、実際に外を走ったら単に運動量を得られるだけでなく、新鮮な空気を吸い、季節の移ろいを感じ、変わりゆく街の風景を楽しめる。
最近は「コスパ」「タイパ」のように、投資に対するリターン効率を重視する風潮が強い。でも、本当は目的や役割に応じて手段を変えるべきで、効率で良し悪しを議論すべきではないものもある。
手帳・ノートもそうだ。備忘録やスケジュール管理だけが目的なら、とにかく「〇〇パ」に優れたデジタルツールを選ぶのがベスト。でも、たとえば「旅の行程を書く」「ビジネスのアイデアを書く」「我が子の成長記録を書く」という行為をイベントや思考の一部として楽しみたいなら、アナログツールも悪くない。
あえて遠回りして、近道では見られない景色を探す。その文脈で考えた時、利便性という言葉から対局にあるようなオススメツールが「トラベラーズノート」だ。
トラベラーズノート
肉厚な一枚革に付いているのは、リフィル(中身となるノート)を止めるゴム、しおりのヒモ、ノート自体を止めるゴムの3つだけ。「ノートカバー」という感じで、レギュラーサイズ、パスポートサイズの2種類がある。
革は傷つきやすく、日焼けしやすい。でも、それを大切に育てると沸き立つ特別感がある。ノートに向き合う時間は、自分と向き合う時間。ページをめくるコンマ数秒で頭が切り替わる。その積み重ねの中、革は所有者とともに歩んだ歴史を刻んでゆく。
デジタルデバイスは購入時がピーク
この「歴史」というのがポイントだ。
デジタルデバイスは買った瞬間が魅力のピークになりがち。傷つき、電池が劣化し、後継モデルが出たら途端に古く感じる。数年おきの買い替えサイクルは、好むと好まざるとにかかわらずやってくる。
一方、アナログツールの中でも革製品は年月がたつにつれて表情が変化し、数年、数十年たってなお魅力が増していく。ともに過ごした時間が長いほど特別な存在になり、どんどん「相棒感」が高まる。
無印良品A5ノートを代替リフィルに
ただ、トラベラーズノートの泣きどころもある。1つがリフィルで、紙が上質な純正リフィルは1冊(60ページ強)300円ぐらいで安くはない。代替品を探すにも、レギュラー・パスポートとも一般的なサイズではなく、互換性のある市販品が少ない。
そこで代替リフィルを自作するのをオススメする。
レギュラーサイズはもともとA5ノートとサイズが近く、縦は同じで、横は4cmほど短い。だから市販のA5ノートを細長く切ると代替リフィルになるのだが、その辺のノートで自作すると、表紙も中身も途中で切れた感じになってしまう。
そこでオススメしたいのが、無印良品で売っているA5ノート(税別100円)。これを横幅11cmで切る。表紙が無地なので、細長く切っても違和感がない。中身は方眼、無地、罫線の3種類がある。
中身の素材は再生紙で、触ると弱々しい印象。ただ、驚いたことに万年筆インクが裏抜けしないので、見かけによらずタフだと分かる。
30枚つづり(60ページ)だから、ページ数は純正リフィルと同等。紙質によほどこだわらないならベストに近い選択肢だと思う。トラベラーズノート1つに、3冊ぐらい(計90枚180ページ)までなら無理なく挟める。
筆者は取引先ごとに別々のノートを作り、複数を1つのトラベラーズノートに入れている。何冊も挟むとそれぞれのノートの端がそろわないし、だから書きにくい面もあるけど、それも愛嬌だと割り切っている。
システム手帳
上記のように、トラベラーズノートはいろんな意味で「雑」なところが魅力となっている。そして、これと対照的なのがシステム手帳と言える。
あまり興味のない方からすると、システム手帳もトラベラーズノートも同じような製品に見えるだろうが、実は「180度」と言って差し支えないほど異なる。個人的には「トラベラーズノート=雰囲気イケメン」「システム手帳=優等生イケメン」だと思う。
トラベラーズノート | システム手帳 | |
---|---|---|
堅牢性 | ✕ | 〇 |
拡張性 | △ | 〇 |
種類 | △ | 〇 |
価格 | 〇(比較的安い) | △(ピンキリ) |
システム手帳といってもピンキリなので、ここでは筆者の手元にある本革製の「ロロマクラシック」を基準に考えてみる。
一枚革なのでグニャグニャしたトラベラーズノートに対し、ロロマクラシックはハードカバーの本に勝る堅牢性を誇る。
トラベラーズノートはリフィルを入れ替えれば用途に制限がないが、リフィルはあくまで「ノート」なのでページを追加したり、余ったページを他に転用したりしにくい。この点、システム手帳は独立したページの集合体なので、ウィークリーの手帳として使っていて、その週だけ予定が多くなったら、ノート用ページを挿入できる。そういう意味で拡張性はシステム手帳が勝る。
サイズは聖書(バイブル)サイズをはじめ、ポケットに入るサイズからA5サイズまでがラインナップされ、色は茶系、黒系、青系、赤系とさまざま。リング径(リフィルを閉じる丸い金具の直径)を複数そろえるメーカーもある。文具メーカーだけでなく、アパレルメーカーが手帳を出していることもある。
筆者は以前、定価20,000円ぐらいのロロマクラシックの聖書サイズを地元書店が「処分価格500円」で売っているのに驚いて購入。あまりに気に入り、リング径の大きな聖書サイズのブルーを追加購入した。
特徴ごとに使い分け
上記の特徴から考えると、トラベラーズノートは情報を後から大量に追加することのない、むしろ順番にページを重ねていくような用途がふさわしい。一方、システム手帳は簡単にページを追加できるため、情報量が増減する用途に向く。
そこで筆者はシステム手帳をスケジュール帳や勉強用ノートとして活用し、予定や読んだ本が増えたら自由にページを増やしている。一方、前述のようにトラベラーズノートは取引先ごとに別のノートを用意し、訪問先ごとに違うものを持ち歩いている。
いまの時代、アナログなツールは「絶対に手元にないと困る」というものではない。機能的な面はデジタルでより便利に代替できるから。でも、手を動かす作業すら過程の一部にしっかりと位置付けるなら、アナログの意味的な面は他で代替できない価値を付加されるように思う。
最近、手帳やノートに触れてないなあ、って方、2025年はお気に入りの手帳やノートを見つけ、静かに自分と向き合ってみませんか?