【続報⑤】サンウェルズの特別調査委が報告書で「経営陣はそもそも理解不足で、不正への関与はない」と結論/訪問看護の診療報酬不正請求問題で

【続報⑤】サンウェルズの特別調査委が報告書で「経営陣はそもそも理解不足で、不正への関与はない」と結論/訪問看護の診療報酬不正請求問題で

※なるべく短く書いたつもりですが、かなり長めの記事になりました。ご容赦を。

訪問看護に関する診療報酬の不正が指摘されているサンウェルズ(金沢市)について、特別調査委員会は2025年2月7日に報告書を会社側に渡し、不正の事実を指摘しながらも、経営陣は理解不足だっただけで関与はしていないと結論付けた。

報告書は72ページもある超大作。内容は整合性がとれていなくもないが、東証プライム上場企業の意思決定やオペレーションが本当に報告書の通りだったとしたら、お粗末すぎると思う。筆者個人は読めば読むほど「んなわけあるかい!」と感じた。

過剰請求分は28億円と試算

まず、報告書を筆者なりに解釈して「超要約」する(再発防止策の箇所は省いた)。

訪問の回数や人数に関し、経営陣の真意と現場の認識のズレがあり、その中で誤解されやすいマニュアルが作成された。事前の訪問看護計画は利用者やスタッフの事情で変更され、実態と食い違うことはあったが、理解不足から計画の方に基づいて診療報酬を過剰請求した。過剰な金額を試算すると28億円となる。この状態に異論を唱える人はいたが、担当者が「問題ない」と説明したり、ふわっと伝えたりしたので、経営陣は不正の事実を知る由もなかった。そもそも経営陣は診療報酬なんて理解不足だったから、不正に関与しようがない。

報告書に匿名で登場する社員数人が決定的に誤っていて、他の人は事情を知らないから仕方ないと聞こえる。しかし、仮にも医療に関する話で、役員も看護師も「理解不足」という言葉を免罪符のように振りかざすケースを目にするとは。いや、理解してくれよ。

28億円というのは特別調査委員会の試算であって、国へ返すことになる金額とはズレるかもしれない(上振れする可能性がある)。

筆者の理解では、この28億円は「1日3回」「1回30分」「複数人」で訪問したと申請したけど、実はそれ未満だったため過剰請求分であり(詳細は下記ご参照)、たとえば「そもそも複数人にする必要すらなかった」みたいなケースは含まれていないように見える。

ちなみに、最も直近の貸借対照表(2024年6月末時点)によると、サンウェルズが保有する現預金は22億円。

それでは、以下に報告書の概要をまとめる(抜け漏れ、誤読は連絡ください)。


調査期間は2024年9月20日~2025年2月7日で、内部資料やメール、チャットの精査に加え、役職員にヒアリングした。2024年10月に2週間だけ設置した情報提供窓口には37件の情報が寄せられた。

訪問看護サービスが提供されている「PDハウス」「太陽のプリズム」では、施設長や看護師に聞き取りを実施。対象者は全47施設925名に上った。訪問看護に携わる全ての看護師と話したかったが、拒否した18名や休職中の59名を含む80名にはヒアリングできなかった。

主な調査対象は以下の通り。

① 社内マニュアルにより、入居者の状態に関係なく「1日3回」「複数名」を必須入力とし、過剰な訪問看護で診療報酬を請求したか。

② 夜間に入居者が眠っていることを看護師1名が数十秒~数分だけ確認したり、睡眠状況を検知するセンサーの画面を遠隔で見たりしただけでも、複数名で30分訪問したとして診療報酬を請求したか。

③ その他

これに対し、結果は以下の通り。

① 役員は重症度の高い利用者に対して「1日3回」「複数名訪問」を基本方針としただけで、常に強いる意図はなかった。社内マニュアルは訪問看護計画書の記入例に「1日3回」「週7日訪問」と記載し、赤枠・赤字で「必須で記載。」と掲載したほか「必要時複数名訪問にてケア実施」と記し、赤枠で「複数名加算の内容を記載」とも表記した。

役員やマニュアルの作成に関与した社員においては「必須で記載。」が「1日3回と書け」ではなく「この欄の記入を忘れるな」という意図だった。具体的な数字については、記入され得る数字の中で最も大きなものを例示したに過ぎない。

ただ、入居者ごとの診療報酬単価の目標として共有される「合格ライン」は、多くの入居者が「1日3回」「複数名訪問」じゃないと達成できなかった。だから、施設長や看護師の多くは「1日3回」「複数名訪問」が基本か必須だと誤認した。

② 日中に訪問看護が短時間で終わったのは29,351件で、全体の1%。2024年9月時点で開設されていた全42施設のうち37施設で存在した。委員会が診療報酬額を試算したら2億3,900万円だった。

夜間は全体の2割に当たる171,546件が該当し、全42施設のうち41施設がやっていた。診療報酬額は18億1,800万円。利用者の部屋で数秒だけ状況を確認するとか、部屋へ行かずにセンサー画面を見ただけで30分間の訪問看護を行ったと診療報酬を請求したケースはあった。

なぜ、夜間に不正があったのかというと「看護師が入室した物音で入居者が目覚めちゃうかも」「就寝時の訪問は控えてほしいと申し出る入居者がいる」という証言があった

それなのに「約30分間」と事実に反する看護記録を作った理由としては、看護師が「計画上の時間を書くと思った」「初めての訪問看護だっため問題ないと思った」と供述した。

主に介護士が当てはまる「同行者」について、実態を伴わずに「複数名訪問看護加算」を請求できるよう看護記録を作成した例は、日中に42施設のうち36施設であり、加算額の試算結果は2億9,200万円、夜間は42施設のうち39施設であり、試算額は4億9,800万円だった。

③ 訪問介護でも、計画内容を実施しなかったのに、計画に基づいて介護報酬を請求していたという供述があったらしい(今回は調査対象としなかった)。

利益を増やそうと人員を…

不正の契機は、2020年度の診療報酬改定を前に、あるPDハウスの管理者が「これからは看護師を増員すると利益が増える」と試算したこと。その前提は「全員に1日3回訪問」だった。かくして人員配置の見直しが指示された。

2022年1月の経営会議で審議した「PDハウス世田谷」の収支計画では、訪問看護10割、同行訪問10割をもとに試算した。以後「10割」が新規出店の試算に関する前提となる。

ただ、短時間訪問や同行者不在に関し、社内取締役4名は「指示等の積極的な関与の事実は確認されなかった」「個別事例として少数存在していることは認識していた者がいるものの、それがサンウェルズ内で広まっているとの認識までは有していなかった」。

経営陣は実態を把握する機会こそあったものの「診療報酬の算定ルールに関する理解不足や訪問看護事業に対するリスク分析の甘さ」があって問題を見過ごした。で、報道や取材を受けて実態を調査して「広まっている実態を確定的に把握した」。

とは言え、この間に利用者によるクレームや看護師による問い合わせもあった。しかし、責任者が「問題ない」と説明したため経営陣は疑問を抱かなかった。内部通報もあったが、すでに改善された個別の問題と片付けた。

2024年5月に同業者で不正があり、サンウェルズは機関投資家の助言を受けて社内を調べた。管理者14名のうち7名が不正行為を目撃した・聞いたと答えたが、調査担当者が「明らかに不正が横行している状況では無いことを確認できたが、理解不足・認識不足から来る不安は現場全体にあることを感じた」などと報告したので、経営陣は鵜呑みにして詳細な調査結果を見なかった。

8月には報道機関から質問状が届き、不正が報じられた。上記の報告があったので、即日「報道は事実無根」と大々的に発表した。


う~ん、赤字部分は筆者が特に腑に落ちないところ。

わざわざ「記入を忘れるな」と言われなくても、その欄を記入するために書類を書くんだから忘れないだろう。「計画上の時間を書くと思った」とのたまった看護師は「記録」という言葉の意味を知らないとでもいうのか。よく国家試験に通ったな…。

そもそも看護師の仕事は「夜は静かな環境で眠ってもらう」じゃなくて「夜もしっかりと健康状態を診る」でしょう。

また、上場企業の経営陣が自らの事業の根幹をなす制度をよく知らなかったり、同業者の不正を受けて指示した社内調査で「現場に不安はあるみたい」という大雑把な報告に満足して詳細を聞かなかったり、なんて有り得るのだろうか。

そして、全国的なメディアである共同通信が確証を持って報じたのに、先の調査結果を詳しく再確認することなく、天下に「報道は事実無根。訴訟を検討する!」と主張したという。

これは完全に主観だが、なんだか開き直って「みんな無知で何も知りませんでした。反省してるので、今回は大目に見てやってください!」と特別調査委員会を通じて会社側が言っているようにも映った。

今回の発表を受け、サンウェルズ株は2月7日夜の時間外取引でストップ安水準まで売られている。サンウェルズは2月12日までに、延期している中間決算を公表し、過去の決算も修正するというが、どうなるだろうか。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、地元新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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