ドラッグストア「ゲンキー」が強い理由㊤ 狭い出店エリアに経営資源を集中、自前主義でコスト抑制

ドラッグストア「ゲンキー」が強い理由㊤ 狭い出店エリアに経営資源を集中、自前主義でコスト抑制

2021年8月5日

福井を地盤にドラッグストア「ゲンキー」を展開するGenky DrugStores(坂井市)の業績が好調だ。2021年6月期の連結決算は売上高が前期比16%増の1,423億円、営業利益は45%増の62億円となり、ともに過去最高。今期(22年6月期)の売上高は14%増の1,625億円、営業利益は3%増の65億円を見込む。

(出典・ Genky DrugStores ホームページ)

既存店売上高が横ばいを維持

同社が公表している決算説明資料で目を見張るのは、開店後1年を超える「既存店」の売上高で、第4四半期、つまり21年4月21日~6月20日分が前年同期比0.9%減と、ほぼ横ばいを示していることだ。

なぜ、驚くのか。

前年同期は新型コロナの急拡大で緊急事態宣言が出され、ドラッグストアは衛生用品や巣ごもり需要の高まりに伴う食品の販売が好調で「特需」に沸いた。足元の生活は1年前と比べれば落ち着いた。小売店は店が古くなれば売り上げが減るのが一般的なことも考えると、21年の第4四半期の既存店売上高は、前年の反動から大きく減っても不思議ではなかったのだ。

同社の資料によると、低価格戦略で1点当たりの価格を下げることで買い上げ点数も増え、コロナ禍の通年で客数は微減(0.9%減)した一方、客単価を7.1%上げられた。この辺りが売り上げ増の要因のようだ。

「坪当たり売上高」が上昇

資料で面白いのは「坪当たり売上高」に関する記述。これはあまり他社で見掛けることのないデータで、こうした指標を出してくる辺り、ゲンキーがどのような意識で店舗運営に取り組んでいるかという姿勢が分かる。

17年6月期に年間103万円だったものが、増加基調の下、21年6月期には116万円に達した。これに対し、坪当たり経費は20万円弱で推移。同社は今後も経費水準を据え置いたまま坪当たり売上高を増やし、坪当たり利益を増加させたい考え。

利益面はコロナ対策の費用などはかさんだとみられるが、一方でチラシなどの販促費を抑えられたことが貢献した。

積極的な内製化、無理のない高速出店

ゲンキーが面白いのは、実は単純にドラッグストアの経営だけをしている会社ではないという点。店舗は不動産業者を介さずに自社で開発し、食品スーパーさながらに弁当や総菜、精肉の加工拠点を有している。プライベートべランドにも力を入れている。

物流も自前で担っており、現在は小矢部市に物流センターを建設する計画を進めている。これが特徴的なのは、小矢部市のある富山県にゲンキーは1店もなく、当面は出店予定がないということだ。

小矢部市は石川県境に接しており、金沢にも能登にもアクセスが良い立地。同社は近年、七尾近辺をはじめとした能登地区で徐々に店舗を増やしている。物流センターは小矢部周辺に店舗があるから、その配送拠点として新設するのではなく、金沢や能登の高速出店を支えるために計画しているという。

ただ「高速出店」と言っても、むやみやたらに出店エリアを拡大している印象はない。

同社は完全に標準化してコストを抑え、7,000人という小商圏でも成り立つ「レギュラー店」を武器に、店舗を増やしている。343店(21年7月26日時点)を展開しているが、その出店範囲は福井、石川、岐阜、愛知の4県と狭い。

この点をクスリのアオキホールディングス(白山市)と比べる。アオキの店舗は754店(21年8月3日時点)で、ゲンキーの2倍だが、進出先は22府県。表にまとめると、次の通りだ。

ゲンキーアオキ
店舗数344店754店
進出先4県22府県
1都道府県当たりの店舗数45~126店1~88店
(両社ホームページの公表資料より抜粋)

比べると、出店戦略の違いが見えて面白い。

ゲンキーは最も店舗の少ない石川でも45店。最も多い岐阜は126店。一方、アオキは山梨(1店)、山形(4店)、静岡(8店)など1桁の県があり、最も多い石川が88店、2番目の富山と群馬が76店。同じ北陸地盤の同業者なのに「狭く深く」のゲンキーと「広く浅く」のアオキという感じだ。

私見では、ゲンキーが低価格で来店頻度や買い上げ点数の増加による客単価の上昇を目指す以上、特定の地域に集中して出店して目につく頻度を上げて「自宅近くにも出先でもゲンキーがあるから、日常的な買い物はゲンキーで済ませる」という意識を住民に根付かせようとしているように思える。

 

後日アップする㊦では、消費者の目線からゲンキーの店舗づくりについて考える。

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