北陸で食品メーカーや飲食店の値上げが相次いでいる。ますのすし製造販売の源(富山市)が2022年4月18日から主力商品の価格を改定するほか、「8番らーめん」を展開するハチバン(金沢市)は具体的な検討段階に入った。ロシア・ウクライナ問題などによる材料費の高騰に伴い、各社は苦渋の決断を強いられている。
「麺類+50円 ご理解のほど、よろしくお願いします」。4月上旬、金沢市内にある個人営業のラーメン店を訪れると、入り口の自動ドアに張り紙があった。麺類に加え、チャーシューも1日から50円ずつ値上げするという。
隣にはマスクの着用を求める張り紙。その隣には、コロナ対策に取り組む店だと示すステッカー。店主も客も、つい2年ちょっと前まで、まさか自動ドアがこんな掲示で埋め尽くされるとは想像できなかっただろう。
ハチバンは時期や幅の検討段階に
東証スタンダード上場のハチバンの担当者は、値上げについて「検討中だが、戦略的な部分なので詳細は言えない」と話した。
「検討中」のレベル感を尋ねると、現在は値上げの有無を議論している段階になく、どちらかと言えば、改定時期や改定額の調整に入っているような状況なのだという。
農林水産省は4月からの輸入小麦の政府売渡価格を、主要銘柄平均で17.3%引き上げると公表した。
北米での不作、穀倉地帯・ウクライナでの戦争が原因で、小麦から作る麺は原材料価格が跳ね上がっている。
ハチバンはこの状況が早期に改善せず、長期化するとみて、値上げに踏み切る方向らしい。
※ハチバンの価格改定に関する続報は以下のリンクから
地場の企業ではないが「カレーハウスCoCo壱番屋」を展開する壱番屋(愛知県一宮市)も、6月からカレーと肉類のトッピングを値上げするらしい。値上げ幅は主要なカレー5品目が33円となる。
さて、値上げは飲食店にとって諸刃の剣である。
個人的な体験談で恐縮だが、以前の職場近くに定食屋があり、2014年春まで毎日のように通っていた。ところが、2年間の県外勤務を終えて16年春に帰ってくると、800円(850円だったかも)だったトンカツ定食に、1,000円を超える値段がついていた。
定食の見た目も店構えも、以前と変わらない。いざ食べれば、懐かしく、美味しい。そもそも1,000円超のトンカツ定食なんてザラにあるのだが、絶対的な支払い額の水準ではなく、2年前と同じランチが3割も高いことに納得できなかった。以来、その店には1度も足を運んでいない。
旅先ではつい財布の紐が緩む一方、日常的な支払いへの価格感応度は高い。A店のランチ値上げで割高感を抱いた消費者は「A店で食わないと、午後に力が出ない」といった盲目的なファンでもない限り、同業で価格を据え置いたB店や他業態で割安感のあるC店に乗り換える。飲食店の値上げは常連客を失う危険性を伴う。
ますのすし改定幅は100~200円
源は18日販売分から、ますのすし各種を値上げする。ホームページ上で公開されている値上げ対象9商品の値上げ幅は、100円か200円。値上げ率は2.7~10.0%となる。
このうち、看板商品の「ますのすし」は一重が1,500円から1,600円に、二重が2,900円から3,000円に上げる。最も値上げ率が高いのは「ますのすし小丸」で、1,000円から1,100円に改める。
外食業や土産需要を取り込んでいた食品メーカーは、このコロナ禍で業績が悪化して経営の基礎体力が弱っている。企業努力で原材料費の高騰分を吸収する余力は少なからず小さくなっただろう。
それでも価格に転嫁できる会社は、まだマシか。自社に競争力があると見込めるポジションにいるのだから。深刻なのは、値上げに躊躇して価格を据え置かざるを得ず、忙しい割に利益が確保できなくてジリ貧になる小規模業者かも知れない。
そう考えると、消費者としては値上げにネガティブな心象を持つ半面、奮闘する企業を末永く応援するために甘受しようという割り切りもあり、複雑な心境である。