金沢市片町2丁目の12階建てホテル「アゴーラ金沢」の運営会社が交代することが2022年4月11日に分かった。6月26日チェックアウト後にいったん閉館し、簡単なリニューアルを経て、すぐに再オープンする見通しとなっている。
アゴーラ金沢は12階建て200室で、宴会場を持たない宿泊特化型ホテル。片町スクランブル交差点から北西(元車方向)に150mほど進んだ左手にある。
筆者はかつて宿泊したことがあり、気取らず無理せず、良い感じに洗練されたしつらえと美味しくボリューム感ある朝食に感銘を受けた覚えがある。
同ホテルは2019年11月に開業。オープンから2年半しか経っていない、金沢では比較的新しいホテルだが、開業時期が悪かった。数カ月後に新型コロナウイルスが広がり、それまで「この世の春」を謳歌していた宿泊業の商環境は一気に冷え込んだ。
同ホテルも赤字が続き、黒字化には再びインバウンド(訪日外国人旅行者)の増加が必須とみていたが、この情勢では早期の市況の回復が難しいと判断。運営会社の親会社で、東証スタンダード上場のアゴーラホスピタリティーグループ(東京)は4月11日の取締役会で運営の終了を決めた。
同社によると、オーナーとの間で定期建物賃貸借契約を合意解約し、6月27日のチェックアウトをもって営業を終了、同30日に物件を明け渡す予定となっている。
備品の処分にかかる費用や運営終了に関する諸経費を特別損失として2022年12月期決算に計上する。
ホテル名も変更か
関係者によると、新しい運営会社は不動産事業や宿泊事業を手掛けるアマネク(東京)だという。同社ホームページによると、宿泊事業では自社ホテルの新設を中心に、既存ホテルの再生なども手掛けている。
金沢では早ければ7月1日にも再オープンするとされている。施設自体が新しく、再オープンまでのタイムラグが数日しかないことから、リニューアルは現運営グループ名を冠しているホテルの名称を変更する程度で、施設には大きく手を加えないとみられる。
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2015年の北陸新幹線開業後、金沢駅周辺から片町にかけての一帯では、ホテル開発ラッシュが起こった。当時はどこかしらで建設工事の槌音が響き、市内の客室数は増え続けた。「供給過多になるぞ」という野次をものともせず、観光客数は堅調に推移し、客室稼働率は高止まりした。
何でも結果論で語るのは簡単だ。
当時、数年後に未知の感染症が世界的に大流行し、金沢駅前から観光客が消えるなんて、誰ひとり思っていなかった。「ホテル客室数の増加が新たな観光客を呼び、さらに宿泊市場が拡大し、だから新たな宿泊業者が進出してくる」というロジックは、確かに成立していた。
分からないことだらけのコロナ禍。未来志向で注目したいのは、金沢のホテル運営から手を引いて大都市に経営資源を集中させる選択をした企業がある一方、これを機に金沢へ進出する企業もあったという事実。そうした新陳代謝がある限り、街は呼吸し続け、成長できる可能性を秘めているということだ。