待って、待って、買って、待つ 「投資で一番大切な20の教え」/ハワード・マークス(日本経済新聞出版)㊤

待って、待って、買って、待つ 「投資で一番大切な20の教え」/ハワード・マークス(日本経済新聞出版)㊤

2021年8月28日

コロナ・ショックで急落し、その後、順調に上昇してきた株式市場。ところが2021年に入り、雲行きが怪しくなってきた。米国ではテーパリング(金融緩和策の縮小)の実行が現実味を帯び、株式市場の暴落も懸念されている。

兼業の個人投資家にとって、こうしたマクロ経済の動向を分析したり、日々の株価に一喜一憂したりしている時間はもったいない。大きな金額を動かしているなら、それでも良いかも知れないが、投資金額が小さい場合は費用対効果が悪くなる。

一方、どこかで聞きかじって米国株のインデックス投信を購入して「金融リテラシーの高い人はインデックス投資」と主張する人も多いが、それはむしろ「平均的な人」だ。他人の言うままに動くだけの人は「リテラシーが高い」とは言わない。

非効率性を理解し、買い時を探る

そんな中、個人投資家が市場の短期的な変化に惑わされず長期的に保有するための心構えを記したのが本書である。本書が推奨するスタイルを一言で表現すると

「市場の効率性を理解すると同時に、非効率性を理解する。掘り出し物を探し、市場のサイクルを意識して買い時を探った上で、暴落時など本来の価値よりも安く買えるチャンスを待つ。底値近くで買えればリスクは小さい。長期投資を成功させるには正しい行動をとるより誤った行動をとらないことに重点を置く」

ということになる。よく言われるのは、個人投資家は資金力に乏しくても時間的な余裕があるということ。多額の資金を動かす機関投資家は定期的に利益を確定させなければならないため、短期的な目線で銘柄を見ざるを得ない。その点、個人は資金が尽きない限り、売る必要もなく、気長に待てる。

本書では「正しい投資も、すぐに成果が現れるとは限らない」と説く。まさに、そうした市場の「ひずみ」を見つけ出し、長期的な目線で上昇を待つことが成功の道と教えている。

これから先、株式市場に暴落があるか分からないが、仮に相場が崩れても、それを買い場と捉えて長い目線でチャンスをモノにするためにも、本書の一読をオススメする。

【要約】

20の教えを大まかに分類すると、次の4項目になる。

 

  1. 市場を知り、価格と価値の関係を知る
  2. リスクを理解し、コントロールする
  3. 「サイクル」を意識して買う
  4. 現在地を把握してタイミングを待つ

 

株式市場の性格を示す考え方に「効率的市場仮説」がある。市場参加者は等しく情報を入手して分析するので、情報は瞬時に、完全に株価に織り込まれてしまうとする説だ。

ただし、本書では情報がすぐに価格に反映されるとしても、その見方が常に正しいわけではないと主張する。すなわち、市場には時たま「非効率な部分」が現れるという。

大方の人々の予測に基づく市場平均に勝つには、コンセンサスを盲目的に信じるのではなく、そうした「市場の誤り」を見つけ出すことが肝心という主張だ。

ここで注意が必要なのは「安値=市場の誤り」と言えるわけではない。効率的市場仮説によると、原則的には、市場は良い情報も悪い情報も織り込む。一見して掘り出し物に見えても、実は隠れたリスクを見落としているだけで、そのせいで安いだけという場合もある。それを読み解くには、単純化し過ぎず複雑に考える必要というわけだ。

決めたら「ぶれない」

投資には証券の本質的価値を推計して割安なら買う「バリュー投資」と将来的な値上がりを期待して買う「グロース投資」があり、本書ではバリュー投資を勧めている。

バリュー投資は証券の価値を見極めるのが大切だが、最も大事なのはその見極めを信じることだ。

重要となるのは(中略)ぶれないことだ。投資の世界では、何かが正しかったとしても、必ずしもそれがすぐに証明されるわけではない

3章 バリュー投資を行う

自身が下した判断を信じ、仮に値下がりしても取得単価を引き下げる「ナンピン買い」をするべきだと主張する。

自分の考えが正しければ、そのうちに値上がりし、割安で購入した資産が大きな利益をもたらすはずだ。そういう意味で、最良と言える投資法は暴落時に他の市場参加者が安値で投げ売りした銘柄を買うことだと紹介している。そうしたチャンスをつかむには日頃から「本質的価値」を意識し、割安と呼べる価格の基準をもっておくことが必要となる。

リスクを制御する

バリュー投資を実行し、銘柄を本質的価値よりも随分と安い価格で購入できれば、さらに下落する不確実性は、さらに上昇する不確実性と比べると、少なくなるはず(もちろん、予測不能な例外はあり、絶対とは言えない)。つまり、安値で買うことは「低リスク、高リターンも可能」ということである。

一方、リスクの存在が実際以上に小さいと誤認されるケースもある。株価が一本調子に上昇して「もうリスクはなくなった」とまで思われるような強気相場の時だ。こうした状態こそ、実はリスクが最も高い。

人はリスクを認識する自身の能力を著しく過大評価する一方、リスクを避けるためになすべきことをひどく過小評価する。

6章 リスクを認識する

本書では、こうした性質を認識しておくだけでも、これから随分とリスクをコントロールできると説く。

【㊦に続く】

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、地元新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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