連載【みやびの宿 加賀百万石】㊥ 「当事者」不在の会見での応酬/焦点は過去?未来?

連載【みやびの宿 加賀百万石】㊥ 「当事者」不在の会見での応酬/焦点は過去?未来?

A「……と聞いてます」

Q「本当に……ですか!?」

A「おそらく……です」

Q「でも、実際は……ではないんですか!?」

2022年10月27日、加賀市山代温泉の「みやびの宿 加賀百万石」で開かれた記者会見を、筆者は「何だか不思議な(奇妙な)空気感だなあ」と、やや白けて見た。

会見の目的は2つ。①新社長の就任報告、②同旅館の雇用調整助成金の不正受給に関する謝罪・説明、だ。もっとも、②については不正当時に運営していたビッグ総合開発(大阪市)、現運営会社「株式会社みやびの宿 加賀百万石」が概要とコメントを公表している。

だから、この旅館の再生を5年前から取材してきた筆者は、新社長の将来のビジョンを聴けると期待したのだが、会場の雰囲気はまったく違った。

「不正を追及するぞ!」「どんな悪だくみをしてたか明らかにしないと!」と鼻息の荒いマスコミが多かったからだ(そのくせ「旅館の“みやび”は平仮名で良いんですか?」「前会長の名前は?」などと新社長に尋ねる記者がいて呆れた)。

まとめページは以下のリンクから

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謝罪しているのは就任10日後の新社長

会見は現運営会社の吉田久彦社長による謝罪から始まった。それに合わせ、たくさんのフラッシュが瞬く。筆者も写真を撮っていたが、ふと思う。

(…この社長は10月17日に就任したんやよね?)

不正受給があったのは2020年12月~21年10月なので、当時、吉田氏はいなかった。だから、不正のプロセスに関する説明も「…と聞いている」「…らしい」という伝聞調である。

世間を騒がせたのは確かだが、頭を下げる本人に非はない。筆者としては、悪いことをしていない人に謝られると、むしろ自分が悪いことをしたような気さえした。

一方で「不正」を前にしたマスコミは攻撃的である。筆者も新聞記者だったので少し理解できるが、自分たちの背後には「善」たる市民が無数にいて、その知る権利に資する自分たちもまた「善」だから、世の「悪」を懲らしめなければならないと信じて疑わないからだ。

不正受給はリアルな被害者がいない

ただ、その「善VS悪」の二項対立の構図は、単純化が過ぎて現実から逸れることがある。そもそも、市民は必ずしも善とは限らないし、マスコミは世論の代弁者でも代表者でもない。本来、取材時にそこにいるのは生身の「人間×人間」だ。

この点、企業の不祥事は扱いが難しい。レンタル衣装業者が成人式前日に夜逃げするなど明らかな被害者がいれば、自分や知り合いを被害者に置き換え、当事者意識を持って取材できる。

でも、例えば雇用調整助成金の場合、税金が原資の補助金を不正に持っていかれ、間接的に全国民が損害を被りかけたわけだが、かと言って直接的な被害感情もないので、リアルに当事者意識を持ちにくい。だから「人間×人間」という濃い関係にはならない。

今回の会見でも、各マスコミは不正の仕組みや責任の所在を追及した。しかし、筆者のようにマスコミから離れてしまった立場で見ていると、何だか会見者と報道陣が噛み合っていない印象を受けた。

吉田氏は「みやびの宿 加賀百万石」の前身「ホテル百万石」の創業家だが、既にオーナーも施設名も変わり、自身は不正に関わっていない。つまり、会見者、報道陣とも「当事者」と言い切れない中での応酬だったからではないかと思う。

ビッグ総合開発が会見すべきだろうが…

そう考えると、本来なら不正申請したビッグ総合開発が会見すれば良いが、当事者の元経理部長は解雇され、不正のきっかけとなる指導をした関連会社の元社長も退職済み。

旧ホテル百万石の再生事業を手掛けてきた前会長の金沢孝晃氏は、手術をして関西で療養中(筆者も事前に金沢氏から聞いていた情報なので確かだと思う)。最近はオンラインで会見に参加する例も増えたが、さすがにリモートで謝罪するわけにもいくまい。

なかなか適任者がいない中、吉田氏によると、思ったより早く不正受給の報道が流れることになり、今回の会見の形になったらしい。


う~ん、そうであればこそ、全員が当事者たり得る将来の話をしたかったが、不完全燃焼だ。「みやびの宿 加賀百万石」の将来のビジョンは、また次の機会にたくさん聴きたい。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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