これだけ!基礎知識【番外編】なぜ わざわざ株式投資するの?/得られる最大の財産とは

野村総合研究所が2021年に実施した「生活者1万人アンケート」によると、日本人の投資マインドは高まっているものの、実際に投資している人の比率は21%ほどで、5人に1人にすぎない。筆者も、自身の親に当たる現在のシニア世代は、特に現金崇拝が根強いと感じる。

なぜ、わざわざリスクを背負ってまで投資をするのか。筆者は投資するメリットとして「①インフレや円安などの環境に対応できる」「②社会の見え方が変わる」を挙げたい。

「物価の安い海外」???

①は足元(2022年春~夏)の状況を見れば理解しやすい。

「物価の安い海外でお買い物」なんて、今や昔話。長いデフレ経済の中、日本で安い賃金をもらって安い商品を買って満足しているうちに、海外は豊かになり、円の価値は下がった。

政府は「賃上げ3%目標」を掲げるが、円の価値が下落すれば、賃金の上昇分を相殺し、実質的な購買力は低下する可能性がある。

例えば、収入が3%増えても、円が5%下がれば、輸入品の日本国内での販売価格は5%ほど値上がりし、買える商品の数量が減る可能性もあるからだ。

この点、株式というのは物価や為替といった変動要因を織り込んで上下する。そのため、インフレや物価高の影響を、ある程度は打ち消せる。まして、日本だけでなく海外通貨や外国企業の株式を保有すれば、円が安くなることで逆にメリットを受けることも可能だ。

ビジネスを所有する、という考え方

②について、株式に投資するということは、その企業のビジネスを所有することを意味する。この辺りの筆者の考え方は、以前にレビューした書籍「教養としての投資」(以下のリンク参照)からの受け売りに近い。

人間1人にできることは限りがある。例えば、北陸のメーカーで働く人は、どんなに爆売れしそうなコーヒー豆が南米にあっても買い付けに行けないし、中東に油田を掘りに行けない。どんなにタフでも睡眠は必要で、24時間働き続けられない。

でも、食品に強い商社の株、原油ビジネスに絡むエネルギー企業やプラント開発業者の株を買えば、その会社が得た果実を、株価上昇や配当という形で受けられる。

仕組み上、株主は会社を所有しているので、経営者は部下、社員は部下の部下と言える。株式を所有するということは、1人間という枠を超え、自身が眠っている間にも、米国や欧州、アフリカで「部下たち」が走り回ってくれる体制をつくることに他ならない。

「コーヒー」の価値はいくら?

そうした考えで世の中を見ると、①に関する記述で触れたように、価格ではなく価値でモノを見る習慣がつく。

極端な例で言うと、新車価格が300万円で3年後の売却価格が200万円と見込める車、新車価格は600万円するのに3年後の売却価格が300万円になる車を比べると、前者の方が本質的な価値が高いと見る。

だから、仮にセールスマンが「後者は500万円に割り引きます」と言っても、前者が合理的と判断できる。しかも、前者を選んで浮いた300万円を年利3%で運用できれば、3年後には327万円になる。

同じ缶コーヒーが自販機で120円、ドラッグストアで60円。それなら、缶コーヒー1本の本質的な価値は60円か。でも、スーパーで買った豆から淹れれば1杯30円だとすると「コーヒー1杯」の価値は30円と理解することもできる。

もちろん、スターバックスで1杯500円を超えるコーヒーを頻繁に飲む人も多い。趣味として割り切るなら、その人にとっては1,000万円の車も、100万円のバッグも、1泊10万円のホテルも、600円のコーヒーも価値ある消費になる。

言いたいのは、特にこだわりなく1日2本、何となく自販機で缶コーヒーを買う人は、豆から淹れる人と比べて毎年6万5,000円をドブに捨て、それを運用すれば得られたはずの利益までも失うということだ。

うまい棒が50円になるとしたら…

株価というのは常に上下動し、株式投資は本質的価値と比べて今がどんな水準にあるかを見極める作業となる。

「うまい棒=10円」のように値段が固定されているわけではない。もしも「うまい棒は全世界で大ブームになり始めた。生産が追い付かない中で『50円でも買う』という人が増え、流通価格が50円まで上がるはず」と考えたとしたら、うまい棒の価格が50円より安いうちは、可能な限りたくさんのうまい棒を買い集め、来たる時に50円で売る。それが投資だ。

この例で得た具体的な利益は、うまい棒の仕入れ値と売り値の差額だ。しかし、実はもっと大きな財産を手にしている。それは「うまい棒にはどれだけの価値があり、それがどう推移するか」という、価値をベースとしたものの見方。これこそ投資に取り組む最大の意義であると筆者は考えている。

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