投資して名経営者に働いてもらう「教養としての投資」/奥野一成(ダイヤモンド社)㊤

投資して名経営者に働いてもらう「教養としての投資」/奥野一成(ダイヤモンド社)㊤

2021年10月19日

初心者も中級者も楽しめる長期投資の教科書である。

2021年9月中旬以降、日本や米国をはじめ、世界の株式市場は不安定な動きが続いてきた。

20年から21年上期まではコロナショックからの回復で、ほとんど一本調子で上がってきたため、仕方のない調整とも思えるが、目まぐるしく変わる相場を見ていると、気疲れが大きい。そんな時にオススメしたいのが本書である。

 

著者は京大を卒業後、旧日本長期信用銀行(長銀)に入社。証券会社を経て03年に農林中央金庫に入り、現在は農林中金バリューインベストメンツの常務兼最高投資責任者を務める。

ここで言う「長期投資」とは1年でも、3年でも、5年でもない。それこそ「一生」である。著者は「一生、売らなくてもよい銘柄を買う」ことを推奨する。

ミッキーマウスを部下に

著者は言う。例えば日本電産の株式を買うことは、永守重信氏に働いてもらうことなのだ、と。ウォルト・ディズニーに投資することは、ミッキーマウスを部下として働かせることに等しいのだ、と。

そういう意味で、投資とは「分散」である。仮に自分が絵を描くことしか才能のない画家だとする。自分が絵を描いて稼いだ金を、名うての経営者に託して自分には考えも及ばないビジネスで増やしてもらう。あるいはキャラクターの版権を持つ会社に投資し、継続的なリターンを得る。特に後者は時間的な制約がない。

自分が寝ている間も、ミッキーマウスは24時間、365日間、世界のどこかで誰かの心を満たしている。

これら全てを独力でできる人はいない。投資というのは収入を得るための領域を分け、時間や地域を分散させることに他ならない。そう考えると、投資する銘柄を検討することは、自分が信頼するビジネスパートナーや仲間を探すことであり、だから「一生モノ」と呼べる相手を選ぶ行為に当たる。

 

本書は具体的な財務諸表やチャートの分析というより、前半で上記のような銘柄選びの心構え、後半で「構造的に強靭な企業」を買うべきだと主張する。後半については㊦で要約する。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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