モノの売り方が難しい時代だと感じる。
2022年10月11日に大手消費財化学メーカーの花王が流したツイートが炎上騒ぎになり、翌12日に花王が謝罪のツイートをするに至っている。内容は以下の通り。
「国際カミングアウトデー」に引っ掛けた形で、花王がシャンプー「メリット」に関する豆知識を披露する
もともと「国際カミングアウトデー」は、自身の性的指向を吐露したレズビアン、ゲイなど、いわゆるLGBTQの人々を祝い、理解度の向上を目指した記念日のこと
長く苦悩を抱え、ようやくそれを乗り越えようと踏み出した人々に思いを馳せる日のはずなのに、花王は「小ネタを披露して商品を宣伝する」ために軽く扱ったとして反感を買った
どんな経緯があったにしろ、花王の落ち度は大きい。「不勉強でした」では済まされない。後で謝っても全て言い訳に聞こえるし、問題の性質上、根は深い。
物ではなくストーリーや意味で売る?
今回の騒動から学ぶことは多い。販売促進活動で「雰囲気」「ニュアンス」みたいなものを重視するあまり、それが「軽さ」につながっていないか、ということだ。
最近は成熟社会のマーケティングで「物そのもの」を売るのではなく、背景にある「意味」「ストーリー」をウリにして共感を得るのが大切だと教わる。
成長社会では「3秒で100km/hに達する超速スポーツカー」と性能や仕様で消費者の物欲を駆り立てた。しかし、成熟社会で人々の物欲が小さくなると、その物を買えばどれだけ自然環境にプラスになるか、といった視点で消費行動に意味を付与するのが有効だという。
「水力由来のエコな電気」という打ち出し方
筆者は「水力由来のエコな電気」が登場した際、上記のような変化を感じた。本来、電気は無色透明で、水力由来専用の電線があるわけではない。水力発電量を把握はできても、厳密に水力でつくった分だけが自宅・自社に来るわけではないだろう。
これは新電力を含めて「電気」という商品が多様化する中、契約者が「意味」を感じられるメニューとして考え出したのだと思う。
極論すると、昔は目に見えるものを説明すれば、良さが伝わった。しかし、今は表から見えないことを紹介し、共感してもらわないといけない。そこで、動画や大量の写真と親和性の高いSNSでのマーケティングが勢いづいた、と筆者は理解している。
服のデザインの良さを伝えるなら、新聞や雑誌などオールドメディアに写真を載せれば事足りる。しかし「その服を着て過ごす日々の満足感」を伝えるには、着用した人が生き生きと暮らす様子を短い動画で流すのが適している。
「話題になる」が目的化してしまうと…
こうした流れの中、企業によっては同じ日に何度もツイートし、消費者との「つながり」を深める手法が根付いた。担当者は「いいね」数が仕事の実績になるだろうから、大量にツイートする中で、時に話題のワードに便乗し、気楽に発言するのも不思議ではない。
ただ、現代はネット社会だからこそ「潔癖」な時代になっており、不祥事や不適切な発言があると、匿名の人が集まってきて袋叩きにする。それが拡散し、炎上する。
深みを感じられて人気になる話を大量に提供したい担当者と、誰かを叩く機会をうかがっているかのような民衆。この両者が1つの空間に同居しているなんて、恐ろしいことだ。
企業が魅力を伝えるために始めても、担当者が「話題になる」ことを目的化してしまうと、花王のような事態に陥る。自社の製品やブランドの背後にある「意味」を伝える上で、まずはその販促活動の「意味」をしっかりと担当者レベルで理解する必要があるだろう。