採用試験の時期を早めると、教員不足が解消する?/課題設定を間違えている典型的なケースだ…

採用試験の時期を早めると、教員不足が解消する?/課題設定を間違えている典型的なケースだ…

全国的に教員採用の時期を前倒しする傾向が出ている。しかし、筆者としては、この流れが課題の設定を誤っている典型的なケースだと、ただ失笑している。まさか、元文部科学大臣が知事を務める我らが石川県が、こんな意味不明な流れに追従するとは思えないが、果たして…。

下に貼った共同通信の記事によると、民間企業の選考時期が早まっていることを念頭に、意欲ある学生を早めに捕まえようと、教員の採用試験の実施時期を早め、なり手を確保しようとしているらしい。

疑問①学生は「教員か、就職か」で天秤?

この前提になっている考え方は「学生は教員になるか民間企業に就職するかを天秤にかけ、早めに民間企業の内定をもらうから、民間企業に流れる」ということ。

そんなこと、あるだろうか?

学生は職種や就労環境、待遇などと無関係に、内定時期が早いか遅いかで就職先を選んでいるとでも言うのか。

A社を本命と見据える学生は、仮に先にB社から内定をもらっても、就職活動を止めない。A社に受かったらB社の内定を辞退するのだ。そう考えると、何とも不思議な前提である。

疑問②「意欲ある人」って、どんな人材?

記事中に「意欲ある3年生を確保したい」というコメントがあった。

「意欲ある」とは何だろう?

普通の感覚で言えば「教員になりたい」という意欲を持っている人は、上記のように、採用試験の時期に関わらず手を挙げてくるはずだ。

仮に採用時期を早めて応募者が増えるとしたら、それは「まあ、保険で教員免許をとったことだし、せっかく民間企業より早く試験をやるなら受けとくか」ぐらいの消極的な人材の上積み分ではないか。「意欲ある」とは対極である。

疑問③そもそも、問題は採用試験の時期?

採用試験の前倒しは「教員」という職業の魅力を上げ下げするものではない。

だから「教員になりたい」という積極的な意欲を持つ新規参入者を増やす効果もなければ、既存の教員の離職を防ぐ効果も見込めない。せいぜいが「A社を受け、B社を受ける流れで、C県の教員採用試験も受けとこう」という層を増やす程度だろう。

つまり、質うんぬんは別として、とりあえず頭数を増やすだけ。それで良いのだろうか?それで万々歳なのだろうか?

結論 つくるべきは試験時期を遅くできる環境

「教員のなり手がいない」という現状を根本的に打開できるのは、教員という職業の魅力付けをする方法以外にない。

この点、教育の大切さや尊さというのは、誰しも大なり小なり理解していると思う。それならば、今ネックとなっている長時間労働、やかましい保護者との関係、待遇こそが課題であり、その解決が積極的な人材の採用につながるはず。

教員採用試験の前倒しは、自ら「教員なんて仕事は特別でも何でもなく、民間企業と比較検討する選択肢の1つに過ぎない」と言っているようなもの。むしろ、目指すべきは採用試験の時期を遅くしても本気の人材が集う環境づくりだ。


今回の動き、そうした根底の問題が見えていないのか、わざと見ていないのか。幼い子ども2人を育てている父親として、小手先の「改革」はむしろ状況を悪化させるのではないか、と懸念している。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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