誰しも、次から次へとアイデアが泉のように出てきたら、どんなに良いかと夢想する。
大量消費社会からバブル経済、失われた20年を経て、もはや(特に若い)日本人はモノ自体への執着が薄れてしまった。代わりに台頭してきた「コト消費」という言葉は何となく理解できても、対応は難しい。
例えば、従来、高級時計を売るなら、ブランドの価値がどれだけ高く、どんなに多機能で、いかに高品質な材料を使っているかなどを訴求すれば良かった。
しかし、現代では物質的な欲求が退化している。説明すべきは、丸暗記できるような、目に見えるモノの特徴ではなく、目に見えない商品の機能であり、聞き手が「そういう生活を送りたい」と思えるようにする工夫が必要になる。そうした売り方を展開するには創造性もアイデアも必要なのだ。
本書によると、アイデアとは空から降ってくるように突飛に思いつくものではない。日々の準備や心構えの結晶として「生み出す」ものだという。
だから、一部の天才だけの専売特許ではなく、手順を踏んで考えれば、ある程度は誰でもアイデアを出せると説く。
著者は米国の広告マン。わずか62ページという薄い本で、1日あれば通読できる。クリエイターのみならず、全てのビジネスマンにオススメできる良書である。
要約①アイデアは既存の要素の組み合わせ
「パレートの法則」というのがある。世の中の2割(3割)のキーとなる人やモノが、全体の8割(7割)の影響力を占めるというものだ。
前者は「投機家」「思索家」であり、後者は「カモにされる人」である。
前者はいつも変革を求め、世界を組み立て直す。一方、後者は想像力に乏しく、保守的で、型にはまった発想しかない。だから前者に操られる。
どちらになるのが良いかと問われれば、当然、前者になるべきだ。
それでは、アイデアを求める上で大切なのは何か。そもそも、特殊で断片的な知識というのは役に立たないことが多い。なぜなら変化の速い時代に、そうした知識はすぐに古ぼけてしまうからだ。
大切なのは原理と方法を求めることだという。
「原理」とは、アイデアは既存の要素の新しい組み合わせであるという前提に立つこと。その上で、事実と事実の間にある関連性を探ろうとするのが最も大切なのだ。
一方で「方法」とは後述する「発想のための5段階」を実践することで、アイデアの芽を出し、育てる過程を指す。こうした手順をしっかりと踏めば、極めて稀な才能がなくとも、アイデアは生み出せる。
要約②「発想の5段階」
著者が勧める発想の5段階とは以下の通り。
- 資料集め
- 資料を咀嚼する(嚙み砕く)
- 「孵化」の段階(意識の外に置く)
- アイデアの誕生
- 具体化させる
各項目を簡単に説明する。
1では一般的な資料と特殊な資料を集める。ざっくり言えば、そのもの自体の情報も、少し広範囲で一見して関係なさそうな情報も集めようということ。たくさん集めれば集めるほど、生み出せるアイデアの質が高まるという。
2のポイントは一つの事実を違う角度から見たり、二つの事実を並べて見比べたりすること。本書では「事実は直視したり、字義通りに解釈したりしない方が意味を理解できることがある」と説明する。
その過程で得た思い付きはメモしておくこと。それがどんなに不完全でも、飛躍したものでも。これが今後のアイデアの前兆だからだ。kれら1、2の段階でいかに多様な情報を集め、自分なりに解釈しておくかが、3以降に進む㊤で大切になる。
【㊦に続く】