負けない長期投資をするには  「投資で一番大切な20の教え」/ハワード・マークス(日本経済新聞出版)㊦

負けない長期投資をするには  「投資で一番大切な20の教え」/ハワード・マークス(日本経済新聞出版)㊦

2021年8月30日

㊤では要約で①市場は原則として効率的だが一部に非効率な面が出現するので、その時を狙って買う②買う場合は本来の価値を下回る価格で購入するよう心掛けると、将来的に大きなリターンを得られる、といった点を紹介した。

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今回は㊦として、後半の「教え」を説明する。

サイクルを意識して「相場の大底」を狙う

相場は上昇と下降がつきもので、銘柄は成長と衰退を繰り返す。これを「サイクル」と呼ぶ。

これがどう動いているかは、後で見ればハッキリと分かるが、その真っ只中にいる時は、どんな段階にいるのかということが分かりにくいという。

こうしたサイクルを前提としたうえで、弱気相場に陥り「人々が解決策を探るのも諦める」ような悲惨な状況になったタイミングこそ、一世一代の投資チャンスである「相場の大底」が訪れると主張する。

心掛けるべきはサイクル(本書では似た概念として「振り子」とも表現している)というのは常に動いており、いったん極端な方向に振れてしまうと、必ず揺り戻し、つまり反動があるという。「振り子」と表現しているのは、そうした性格からだ。揺り戻しは短時間に、速く動くため、絶好の投資チャンスと言える。

相場の大底は、潮がまた満ちることを全ての人が忘れた時にやってくる。

9章 振り子を意識する

強欲が判断を鈍らせる

価格の上昇に伴って大きくなる強欲は「麻薬のように」判断を鈍らせる。

優秀な投資をするには、いかに知らないことが多いかを理解し、周囲の熱狂に同乗しないことが肝心となる。

浮かされやすい心理の仕組みを分かって冷静でい続けるのを前提に、当初に見込んでいた本質的価値を意識し、サイクルの動きに注意を向ける。そして誰もが過小評価しているものを探して買い、周りが熱を上げ始めたら売る

これを簡単に言うと「逆張り投資」のススメである。リスクの低い状態(つまり前述のように安値の状態)の銘柄を仕込んで長く持ち続け、含み益の期間を長くする。過熱気味になってきたと察知したら売るという手法である。

 

我慢して時を待つ

サイクルに関する説明にあった通り、今の市場がどんな状況にあるかを、今の段階で正確に知ることはできない。

ただ、ここに1つの光明がある。「投資は相対選択」ということだ。売る人がいるから買えるわけで、周囲が軽率にリスクをとっていたり、逆に恐怖のあまり動けなくなっていたりという状況を観察し、自分の態度を決めることができる。そういう極端な状況が来るのを我慢強く待つ必要がある。

そのためには、自分の手が届かないマクロな世界を予測しようとするのではなく、自分が知り得ることに集中して判断をすべきだ。そして、大勝ちすることより、間違ったことをして致命傷を負わないことを優先しなければならない

投資機会が存在しない時に、それを生み出すことはできない。

13章 我慢強くチャンスを待つ

掘り出し物というのは、人々が実態よりも悪い印象を抱いている時しか生じない。個別銘柄で言えば過小評価されている時、市場全体で言えば暴落時ということだ。

【要約おわり】

感想 ボールは何度見送っても良い

野球ではストライクゾーンに来たボールを3回見送ってしまうと、バットを振らなくてもアウトになる。しかし、投資では何度、絶好球を見逃してもアウトにはならない。

ただし「機会損失」という言葉もある。「買っていれば10万円ほど儲かる(儲かった)のに、それを得られなかったから損したようなもの」という考え方だが、機会損失の概念は完全に仮定の世界の話なので、現実に生きる人間が気にする必要はない。実際には「得をしなかった」というだけで、損なんかしていない。

絶好球にバットを大振りしていればホームランになったかも知れないが、実際は振っていないから塁に出ていない一方でアウトにもなっていない。もしかしたら、大振りしたらフライに終わったかも知れないし、自打球でケガをしていたかも知れない。

本書のような投資手法は慎重に環境を見つめて好機を待ち、いろんな誘惑に耐え続け、買ったら今度はじっと値上がりを待つ、という非常に地味なもの。だが、そうすることで「ジタバタ動き回ったら、結果として損した」というような失敗を避け、ゆっくりじっくりと進塁できる。

「本質的価値」という言葉が何度も出てくる割に、さほど定義がされていないのは気になるところだが、株高感もあり、相場が不安定な今こそ、こうした「負けない長期投資」という手法を学ぶため、本書を手に取る価値はあるだろう。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、地元新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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