2022年12月1日、優れた石川県産天然ブリを認定する「天然能登寒ぶり」のうち、さらに優れたものを認定する新ブランド「煌(きらめき)」の第1号を、食品スーパー、どんたく(七尾市)が400万円の高値で競り落として話題になった。
翌2日、金沢市のどんたく西南部店に展示されている400万円のブリを見てきた。
確かに太っていて美味しそう。だが、あまりの高値に、ブリ自身が目を丸くして……。
店内には、どんたくが落札したことを誇らしげに告げる販促物が幾つもあった。そして、400万円のブリの写真をスマホでパシャパシャ写真を撮るご老人たち。なかなか珍しい光景だ。
同店では12月3日に限定販売するそう。まさか1切れ1万円というわけはないが、その値段に注目したい。
ブランド農産物の絶大な宣伝効果
さて、ブリ1本が400万円というのは、ものすごく高いように感じる。しかし、捉えようによっては「高過ぎる」とも言い切れない。昔、県産のブランド農産物を高値で落札した宿泊施設の責任者と雑談した際、彼は「何で、みんなが買わないのか理解できない」と話した。
例えば「すしざんまい」は(現在)北陸に店がないが、日本人の多くが、社長の顔と下の写真の絵面を知っている。
世間の相場を大きく上回る落札価格は、各メディアが大きく取り上げる。しかも、ニュースは全国に流れることもあり、その度に社名が出る(短いテレビニュースで社名が省かれても、ネットで検索されることも)。地元の新聞は1面で報じる。それらの宣伝効果は計り知れない。
「400万円」、新聞広告だと1回きりで終了
仮に今回のブリの400万円で企業広告を出したらどうなるか。2020年度の北國新聞の広告掲載料で言えば、基本料金は1つの面を丸々使う全面広告が税別316万5,000円。カラーにすると、プラス70万円。これで税金を加えれば400万円だ。
新聞広告で得られる効果は業種により異なるだろうから一概には言えない。ただ、筆者が独立して身に染みているのは、世の中の人はほとんどの広告を素通りするということ。よほど魅力的な写真やキャッチコピーがあるか、好みのタレントが出ていないと効果は薄い。
その点、当たり前だが、ニュースを観る・読む人はニュースそのものを欲しているので、番組を観たり記事を読んだりする際は、広告を目にする時と本気度が違う。同じ「ニュース・紙面に名前が出る」でも、費用対効果で見れば、大きな差がある。
お客さんに直接、唯一無二の体験を還元
それに、今回のブリのように、消費者に直接的に還元もできる。
12月3日、どんたくで400万円のブリを1切れでも買えた人は、一個人や競合他社では絶対にできない唯一無二の経験をすることになる。どんたくは400万円で、全国に(一過性ではあっても)社名を響かせるとともに、何よりも顧客に対して極めて貴重な体験を提供できるのだ。
一般企業はブランド農産物で地域貢献も?
でも、そういう意味では、落札者は何もスーパーやレストラン、宿泊施設に限らず、一般の事業会社でも良いかも知れない。
製造業では定期的に地域住民を招いた「〇〇工場祭り」みたいなイベントをやっている。仲買人とのパイプさえあれば、イベントに合わせて高額の地場農産物を落札し、来場者に振る舞うのも、1つの社会貢献・地域貢献として考えられる。
「400万円のブリ」が高過ぎるなら、もっと手頃な農産物もある。
ルビーロマンは100万円台だし、例えば「加賀丸いも」は22年の初競りで、最上級品の1箱(2個入り)が4万円の高値だった。ブリと比べると地味な金額だが、普通は1個2万円のイモを食べる機会なんて一生に1度もない。何だかんだ感謝されることは間違いない。
打算を超えて
筆者がこう言う背景には、地元新聞で農林漁業も担当した経験から、第1次産業を盛り上げたい気持ちもある。
より多くのプレーヤーが競りに参加すれば、値段は上がりやすいし、ブランド力も増す。そうやって、最高値の1箱・1本だけが極端な値を付ける局面から、価格が全体に底上げされる局面に移れば、従事者の収入も少しずつアップし、人材確保につながるはずである。
「食」は地域の風土から生まれ、文化につながる。いろんな打算はともかく、大きな視点で競りに臨む会社が増えれば、きっと北陸の農林漁業、ひいては食文化はもっと「煌めき」を増すだろう。