存在が消えるシャープペンシル、ぺんてる「グラフ1000FOR PRO」/ まるで「浮気を許す貫禄のパートナー」

存在が消えるシャープペンシル、ぺんてる「グラフ1000FOR PRO」/ まるで「浮気を許す貫禄のパートナー」

2021年7月20日

ほっそりした彼女も気になるし、着飾ったあの子も可愛い…。そんな浮気心から、ふらふらと遊び歩いても、いつの間にか戻ってきている場所がある。

グラフ1000フォープロ

ぺんてるのシャープペンシル「グラフ1000フォープロ」は、まさにそんな1本。色合いは基本的にマットブラックで、無駄な装飾はない(たまに店舗限定や期間限定のカラーが発売される)。

見た目はミニマムと言えば聞こえが良いが、要するに地味。むしろ武骨。

だから、キラキラした新しいペンが現れると「なぜ自分はこんなにパッとしないペンを愛用しているんだ。たまに違うのに手を広げてみよう」と思い、流行っているカラーの軸の商品なんかを購入してしまう。

もちろん、新しいペンはそれなりに良いのだが、しばらく使ってみると何だか飽きてくる。そして気付くと、手には「ただ黒いだけ」と思っていたグラフ1000フォープロを握っているのだ。

では、その魅力を解説しよう。

階段状の先金、4mmガイドパイプ

まず特徴的なのはマットブラックの先金が階段状になっていること。そして、4mmのガイドパイプが出ていること。これは製図用シャープであることに由来する。

写真の通り、筆記中にペン先が見えやすいよう配慮された造りになっている。

「階段」だからステップヘッドと言うらしい。階段状なのはデザインの問題だろうが、要は細くしてあるということ。これは慣れてしまうと当たり前になり、ありがたさを感じなくなるが、たまに先金が丸っぽいデザインのペン(ドクター〇リップなど)を使うと、ありがたみが分かる。

重さは11g。1円玉が11枚分。つまり、とにかく軽い。中には「慣れると、持っていることを忘れるぐらい手になじむ」との声も。これには大筋で同意する。軸径は10mmで、基本的には細身のペンになる。それなのに、身長186センチで普段はそれなりに太いペンを好む筆者でも、手に持つと心地よい太さに思えるから不思議である。

先金の階段の「へり」のような部分は、使い込むと塗装が剥げ、金色の地色が見えてくる。こうした経年変化、嫌いな人もいるだろうが、ペンをあくまで道具として捉えると、味わいが増すとプラスに捉えても良いのではないか。

大きさ軸径 10mm ×奥行 8mm × 長さ 145mm
重さ11g
芯径0.3/0.4/0.5/0.7/0.9 mm
定価1,000円(税別)

経年変化という文脈で言うと、軸部分の印刷も剥げてくる。軸部分にはもともと、商品名と社名、芯径などが印字されている。このうち、芯径は上記のように5種類あるので、印字が消えると、いま自分が何mmのペンを使っているのか分からなくなりそうだが、心配はいらない。芯径ごとにキャップの色が違うのだ。

この配色、ぺんてるの製図用シャープの兄弟分であるグラフギア1000、グラフギア500、グラフレットも共通となっている。

兄弟分がたくさん

グラフ1000フォープロには「グラフ1000CS」という兄弟分もある。これはマットなフォープロに対し、光沢のある塗装(黒、青、赤)が特徴で、内部の機構は同じ。ただ、芯径は0,3mmと0,5mmの2種類のみ。

「グラフギア」2商品はローレットグリップという金属製やすりのようなグリップで、滑りにくい半面、長時間の筆記には向かない。つい我を忘れて集中すると、中指の第1関節に異常な赤みが現れる。

価格帯で分類すると、グラフギア500とグラフレットが定価500円(税別)。グラフ1000フォープロ、同CS、グラフギア1000が1,000円(同)。ここに、2021年になって「PG-METAL350(サンゴーゼロ)」(350円)という末弟が発売された。「製図用のエントリーモデル」という位置づけらしいが、別に入口は人それぞれで良いじゃないか。

当サイトではあくまでグラフ1000フォープロを猛烈にプッシュする。

最も愛用するのは7mm。次が4mm。普通のシャープペンにない芯径が、妙な特別感を味わわせてくる

短い寿命、長い歴史

シャープペンシルの寿命は短い。

だいたいの小学校はシャープペンシルが禁止だし、大学生ぐらいになると少しずつボールペン派に流れ始める。社会人になってシャープペンを使うのは、特定の職業を除けば、かなりの少数派になるだろう。

日常的に机の前で椅子に座り、ノートに書きこんでいた学生時代と比べ、社会人になると立ったまま書いたり、さまざまな質感の紙に記入したりする必要がある。その場合、ボールペンは一般にシャープペンと比べ、軽い筆圧でも、よほど変わった紙でない限り、しっかりと発色する。

だから、だんだんとボールペンを重宝するようになるのも自然な流れだ。

それでは、大人になってシャープペンを使うメリットは何か。当然、一つは消せること。ちょっとしたメモ書きや本への書き込みなんかでは意外に重宝する。

ランニングコストの安さも魅力の一つ。一般に販売されている芯は30~40本ぐらいが入って200円程度。正確に記録したことはないが、40本分の芯を使い切るのはかなりの時間がかかるだろう。もっとも、文房具は全般に価格が安いので、金額的にはそれほど大きな差はない。

これに加え、シャープペンを持つと、勉強に打ち込んだ時期を思い出して「さあ、やるぞ」とやる気が出てくることがある。主にシャープペンを使っていた中高生の頃というのは、高校受験や大学受験を控え、おそらく人生で最も長く机に向かい、真剣に勉強する時期だろう。

大人になって資格試験の勉強をするのは、収入アップや昇進など経済的な損得に紐づいた学習になるが、学生は違う。「単純に勉強が楽しい」「周りに勝ちたい」「良い学校に行って異性にモテたい」など、具体的な損得と離れた目的なのに、異常な集中力で長時間の学習を続ける。

シャープペンを持ち、芯を出すため、カチカチと2、3回ノックする。この行為が気持ちを切り替えるポイントにもなる。

まして、このグラフ1000フォープロは1986(昭和61)年に発売されたというから驚きである(筆者はその前年生まれ)。この長い歴史の中で、ほとんどデザインを変更していないという辺り、プロダクトデザインとしてレジェンドの域に入っている1本と言って良いだろう。

クリエイターの中では、アイデアを出す際にコンピューターよりも、お気に入りのペンによる手書きの方がはかどるという人がいる。個人差はあるだろうが、そうした頭の切り替えや過去の記憶も、何らかの後押しをしていると思う。

この機会に、いま再び、シャープペンに手を伸ばしてみてはどうだろう。

 

ぺんてる公式ホームページの紹介ページ(https://www.pentel.co.jp/products/automaticpencils/graph1000/

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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