2023年7月1日の北陸中日新聞1面がおもしろかった。2023年の「金沢百万石まつり」で仮装行列の観客数が「39万人」だったとする公式発表を受けて(今さらではあるが)否定的な検証記事を出したのだ。
当サイトでは行列直後に以下のリンク先のようなコラムを書いて「39万人」もいたら、1人当たり28cm四方の小スペースで密集していたはず、と現実離れぶりを指摘していただけに、今回の記事を楽しく読んだ。
金沢市はどうやって集計? ⇒ 見た目の印象で
北陸中日新聞によると、金沢市が発表する見物客数は、何となく見た目の印象で決めてたらしい。「昨年よりは多いかな」みたいな。
行列後、SNSでは「あまりに多いと思うけど、観光庁のガイドラインに従って計算してるんだろう」という声もあったが、そんなレベルではなく「見た感じ」だった。脱力感で笑う気も起こらない。
記事によると、携帯電話の位置情報を使って武蔵交差点から半径1.5km(直径3km)の状況を調べたら、行列が通った中心的な2時間に範囲内にいたのは7万人台らしい。
20歳未満の人は除外されている半面、携帯の位置情報には行列に関心のない買い物客・住民も含まれているはず。私見では、実際の見物客数はどれだけ多く見積もっても10万人を超えないと思う。
北陸中日新聞の記事はコチラ(https://www.chunichi.co.jp/article/720494?rct=k_news)。いずれリンクが切れた時のためにスクショも貼っておく。
ここから学ぶべきは、どれだけ今やってることが正確でも、前提条件やそもそもの手法が誤っていれば、結果は誤りを上塗りするにすぎない、ということか。
価値ある記事とは
今回のような検証にはメディアの矜持が現れているし、こうした報道をするからメディアとしての存在価値があるのだと思う。
人口45万人の金沢に、失礼ながら知名度の高くない俳優が来て、より大きな都市圏にジャニーズ俳優を呼んだケースに比肩する「39万人」が来た、と聞いて、見物客数があまりに多いと疑問に思った人はたくさんいただろう。
そういう疑問って、現代ではSNSで瞬時に拡散する。昔は埋もれてしまっていた人々の違和感が、すぐに世の中を駆け回る。
そんな時代にメディアがやるべきは「広報マン」よろしく、行政と徒党を組んで発表資料を垂れ流すことではない。第三者の目線で物事を真っすぐに見て、おかしいものはおかしいと声を上げることだろう。
行政とベッタリだと、ネタを「もらえる」し、自社に利益を引っ張ってこられる。でも、行政相手でも企業相手でも、取材先から「もらえるネタ」なんて、相手の都合で提供される広報的な内容で、一般人目線では大しておもしろくないことが多い。
取材先に迎合するだけでは、メディアの価値を失う
誰もが直接的に広く情報発信できる時代、もらったネタを垂れ流し、広報的な機能に終始しているメディアは価値を失う。
マスコミは「マス=大衆」を相手にして固定の読者や視聴者がたくさんいるから媒体としての利用価値がある。価値が下がってユーザーが減れば、マスコミと取材先の立場が逆転し、いつか取材先自身で情報発信した方が、よりコストをかけず大きな効果を得られるようになる。
あらゆる意味で取材先との距離感は大切。嫌なことを言える関係でないといけない。
「39万人が見物」と聞き、他のマスコミ各社(と記者)や市役所の職員は疑問が沸かなかったのだろうか?
疑問だったけど黙っていたのなら行政に近すぎるか、無気力すぎる。何も思わなかったのだとしたら、そもそも物事を見る力がない。業態転換(個人なら転職)をおすすめしたい。