【妄想?】進む「金沢旧市街地空洞化計画」とは/緑地に次ぐ緑地/目指すは比較不能な「オンリーワン都市」?

【妄想?】進む「金沢旧市街地空洞化計画」とは/緑地に次ぐ緑地/目指すは比較不能な「オンリーワン都市」?

2023年10月21日

金沢の未来について抱く大きな危機感を覆い隠し、フザけて自虐的に書いてます。フィクションとしてお付き合いいただける方、ご笑覧いただけると幸いです

馳浩石川県知事が金沢経済同友会との意見交換会で県社会福祉会館(金沢市本多町)を壊して緑地化する方針を示し、着々と進む「金沢旧市街地空洞化計画」がさらに前へ進むことになった。

この計画を知らず、旧市街地の再活性化を願う市民があまりに多いので、今回は啓蒙のため本計画について記そう。

冬の香林坊交差点

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「計画」の概要とは

かつて「加賀百万石」の栄華を誇った金沢。江戸時代には江戸、大坂、京都に続き、4番目に人口が多かった。そのことから「幕末4大都市」と表現する地元民もいる。ただ、実は金沢13万人に対し、3位京都が37万人で約3倍、5位名古屋が11万人。「4大」は都合よく切り取り過ぎている。

現代の金沢は勝手に「百万石の歴史伝統文化観光本物風格都市」的なポジショニングを標榜している。「北陸の小京都?いやいやいや、俺たちは『オンリーワンの金沢』なんだよ」と、とにかく誇り倒すわけだ。

今では全国の「市」対象の人口ランキングで35位に落ちたが、関係ない。そんな俗世的な基準は「歴史伝統文化観光本物風格都市」に相応しくない。むしろ、計測可能な価値は積極的に低下させ、抽象的で曖昧な世界に生きようではないか。

そうした背景から長い期間をかけて進んでいるのが本計画である。

かつて、石川県いや北陸の中心地だった香林坊から兼六園・金沢城にかけてのエリアから、一般的な都市としての魅力を余さず消し去る。他の都市と比較できない街にするのが、唯一にして最大の狙いである。

県庁、金沢大学、県立図書館、野球場、映画館…全て消える

昔、このエリアにはたくさんの魅力があり、毎日、多くの人が行き交った。

一例を挙げると、金沢市役所の向かいに県庁があり、金沢城の中に金沢大学があり、近くに金大の附属小学校・中学校があった。県立図書館があり、野球場やテニスコート、ボウリング場、映画館もあった。

遅くまで働く県庁マンは、夜食をとりに飲食店を利用し、学校帰りの若者が闊歩する。年配者に聞くと、尾山神社の境内には定期的にサーカスが来ていて「街に行くと、何か楽しいことになる」という期待にあふれた街だったらしい。

そんなありふれた街は、けしからん。よって、本計画では全てを郊外に追いやった。

県庁跡地はほとんどを芝生広場に。金沢城は復元した倉庫と芝生広場に。映画館の跡地は平面のコインパーキングに。「高度利用」の逆を進む。附属学校跡が金沢21世紀美術館として成功したのは計算外だが、向かいにあった旧県立図書館は緑地にできそうだ。

年に何日かイベントがある芝生広場。逆に言えば、年の大半は死んだスペースで、せいぜい散歩コースになるぐらい。使いみちがなさすぎて素晴らしい。

さらに緑地を増やせば、どうなるだろう。地元新聞は言う。「街に潤いが加わる」「ヒートアイランド対策になる」。こんなぼんやりしたことを言っておけば、後で「緑地化は大失敗だった」と責められることもない。

金沢にとって最大の課題は、まだまだいわゆる「市街地」然としているところなのだ。このエリア、寄って見ても引いて見ても、緑化率は半分もある。もっと、ジャングルやサバンナのようにして、湿気に満ち、俗人を寄せ付けない感じにしないと。

商業の復活を防げ!!!

もし、社会福祉会館の跡地に21美のような良い施設ができたら、街の俗世的な魅力が上がってしまう。

まずい。「でも、金沢の人口って〇〇より少ないんだ~」と比べられる。そうなると「オンリーワンの歴史伝統文化観光本物風格都市」というポジションが危うい。

しかも、それが起爆剤となれば、せっかく空きテナントが目立ち、再開発計画も進んでない地元商店街が復活しかねない。それを防ぐには、ただただ薬にも毒にもならない草木を増やし、誰も足を運ばないようにするのがベストなのである。

しいのき迎賓館を真ん中に配置。縦横はそれぞれ500m

再開発なんて、上の衛星写真の通りの位置関係だから、もしも計画が前進して「片町きらら」「香林坊東急スクエア」と合わせて「屋根付き空中通路で結ばれる商業施設群」みたいな都会的で便利なものが形成されたら、街に人が戻ってきかねない。

そもそも、これまで戦略的に中途半端な鉄道と中途半端なパーキングを残し、絶妙に交通が不便な街を演出してきた。俗人の流入を妨げるためである。「歴史伝統文化観光本物風格都市」にそぐわない人の来訪は食い止めないと。

日銀跡地にZepp?

ちなみに、上の写真で言う中央左、日銀が移転した跡地について、本計画では「ホールを造れ」と呼び掛けている。

この点、西金沢駅近くで計画が棚上げになっているライブホール「Zepp」を日銀跡地に持ってきたら良い、という人がいる。だが、ちゃんちゃらおかしい。

旧市街地というのは今なお、それなりの繁華性があるエリア。そこに集客力のあるZeppなんて持ってきたら、街が栄えてしまうじゃないか。後述するように、街に若者は要らないのだ。

日銀跡地に造るホールというのは、月に数回のみ稼働し、高齢者がパラパラと足を運ぶだけのホールが望ましい。間違っても賑わいなどつくってはならない。

商工中金とMROをロックオン

さて、これまでの取り組みの甲斐あって、旧市街地に緑地が増えてきた。でも、まだまだ人も車も通っている。次に手を下すべき場所はどこだろう。

「次期緑地化候補地」としては商工中金と北陸放送(MRO)が最有力である。

オフィスは週5日も一定数の人が出入りする。MROなんて、社会的に影響力のある多様な人物が訪れる。そんな人たちが旧市街地に行き交って「緑に囲まれた社屋って、県外で言うと〇〇みたいで素晴らしいですね」と比べられ、発信されてミーハーな人が金沢に来てしまう。

衛星写真の通り、既に周囲は神社と公共施設、緑地ばかり。それを大義名分に移転を切り出しやすい環境は整ってきた。笑いが止まらん。文字通り、草生えるわ。

同じ「木を植えてます」

閑話休題。そう言えば、先日の友人との会話。

「金沢の旧市街地はイオン系の金沢フォーラスやイオンモールに客をとられたよね?」

「うん」

「皮肉だな。イオンって『木を植えてます』だろ?」

「うん」

「客を奪ったイオンが木を植えてて、客を奪われた旧市街地は空き地に草木を植えて。結局やってること同じじゃん」

虚構の「学都」で

ところで、金沢は人口当たりの学生数が全国有数の「学都」と称している。

……と実際は言いたいだけで、多くの市民は地元の大学生をほとんど見掛けず、学都という実感は乏しい。なぜなら、ほぼ全ての大学は金沢市郊外や他市町にあり、特に県外出身の学生は大学周辺で生活するからだ。

最近、県が「学生が就職で県外へ行かないよう、大学が呼び掛けてくれ」というようなことを言ってたらしい。

それは無理。だって、学生はコンビニで食事を買い、チェーンのドラッグストアで日用品を購入し、アマゾンを活用して生活する。居住地は金沢市内でも、日常的に「石川県固有の魅力」みたいなものに触れる機会は少ない。

就職時にいきなり「石川に残ろうよ」と言われても、学生は「なんで?故郷の〇〇とどこが違うの?」となる。もちろん、本計画からすれば願ったり叶ったりである。

若者が街に来ると、多様で新しい価値観が入り込んでしまう。見た目も華やかなので、街に活気があるように映る。商売が繁盛し、一般的な意味で都市が栄えると「じゃあ仙台と比べると…」「福岡では…」と言われる。金沢が「オンリーワン」ではいられなくなる。

モノサシの向こう側へ

最後に。ふと思う。「オンリーワン」って何だろう?

新聞にはよく「国内初」「北陸で唯一」という言葉が出てくる。でも、それはみんなが望ましいと感じるケースに限って価値がある。たとえば「国内初、重量10㎏で重すぎるから速く歩けない靴」はニーズがないので、価値がない。

それでは市街地を緑地で埋め尽くしたら「新しい都市像」になるという主張はどうだろう?

旧市街地の緑化面積が少し増えても、地元住民に目立ったメリットはない。観光客が今さらこしらえた緑地を賞賛するはずもない。誰にとっても魅力がないなら、その「オンリーワン」はただの自己満足だ。

まして、草木ばかりが増え、人が減った街を「都市」と呼べるのか。確かに「新しい」よ?。だから?興味ないけど?っていう……そんな街に金沢はなりたいのか。

……いやいやいや、思考をやめよう。金沢は素晴らしい。唯一無二だ。そうに違いない。そうじゃなきゃいけない。金沢を否定する奴が偽物なのだ。「歴史伝統文化観光本物風格都市」は俗世を離れ、誰にも定量化できない「モノサシの向こう側」へ行くのである。

(おわり)

あとがき:意図してバトンタッチを

筆者は金沢、石川が好きです。だから東京からUターンしました。

それなのに、最近の金沢は「本物」「風格」みたいな曖昧な基準に逃げて自己を正当化し、過去の「成功体験」を焼き直しているだけのように見え、残念に感じています。

今回の福祉会館跡地の緑地化も、根拠には「緑が街に潤い」「ヒートアイランド対策」「街並みに一体感」といったものが挙げられていますが、一般論に過ぎると思いませんか?

金沢を訪れて「緑が少なくて殺伐とした街だなぁ」と感じる観光客はいないし、ヒートアイランドが金沢の最優先課題だと考えている地元住民もいないでしょう。また「一体感」と言えば良く聞こえますが、要は既にあるものを思考停止で再生産するだけ。

結局、現実の街を見ずに一般論を唱える一方、経済拡大期の感覚で「『雑然としてゆく都心に緑を』と逆張りしている」と得意になっているのではないでしょうか。今は人口減少時代。放っておいても世間の緑地は増えていくというのに…。

もちろん、これまで街づくりに邁進してこられた先達には敬意を表します。そのおかげで私も大きくなれました。

しかし、どんなに優秀な人も、個人のセンスと時代のニーズには差が出てくるもの。こういう今後数十年を左右する分野では、おそらく自分たちより広い世界を見て育ち、この先も街に暮らし続ける若い世代に対し、意図的にバトンを託す姿勢を見せてほしいものです。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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