退職あいさつで見えた相手の仕事観/自分の仕事をどう定義するか

退職あいさつで見えた相手の仕事観/自分の仕事をどう定義するか

2022年3月19日

前職を辞める際、取材でお世話になった方に退職あいさつをした。相手の反応は大きく分けて2パターン。そのどちらになるかに、それぞれのキャリア観が現れているようで面白かったので紹介する。

「実は新聞社を辞めることにしたんです。お世話になりました」

最初の反応は一様に「えっ、そうなの!?」という驚き。そして、二言目に2パターンがあった。まず1パターン目から。

①「次はどこか決まってるの?」

筆者がいた新聞社を辞めた人の進路は、大きく分けて2つ。他の新聞社や通信社に移るか、一般の事業会社に転職するか。

新卒で新聞記者になると「取材→執筆→取材→執筆…」という毎日を繰り返す。社内には「取材は金がかかって当然」という治外法権的な意識が根強く、コスト感覚は養われない。

新聞社を辞めるにも、話を聞いて文章を書くしかスキルがないので、基本的には同業か、懇切丁寧に物事を教えてくれる事業会社に所属する他ないのが実情だ。

そんな事情まで勘案したかは分からないが、①のように問い掛ける人は職場への帰属意識が強いように見える。仕事とは、どこかに所属して組織の力(資源)を使ってやるべきものだと捉えているのではないか。

だから、このタイプの人にとって「自分の仕事は?」に対する答えは「〇〇株式会社の社員」だ。会社に所属し、ちゃんと給料をもらい続けるためにしっかり働く。悪く言えば、会社への依存度が高く、雇われ意識が強い。

2パターン目の反応は、こうだ。

②「次は何をやるの?」

どこまで明確に意識したか知らないが、①が所属先を聞いているのに対し、②は仕事の内容を聞いている。この問い掛け方をしてきたのは、お察しの通り、経営層が多かった。

よく、日本人に「あなたの仕事は?」と聞くと、①のように「〇〇株式会社の社員」という所属か「トラック運転手」など職種で答え、欧米の人は「生活に欠かせない食品を遠くまで運んでいる」などの機能で答えると言われる。

②の問い掛け方は後者に通じる。自分をある程度独立した存在と位置づけ、自分の仕事を内容や役割で捉える。その役割を達成する手段として、独立・起業したり、会社に所属したりするということだ。それゆえ、自分の仕事を考える際、所属や職種に縛られない。

ただ、こういう人は割と自意識が強いと思うので、一般的な日本人からすれば、とっつきにくい面が多いだろう。

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①と②、どちらかが優れているとか劣っているとか言いたいわけではない。

仕事やキャリアに対する考え方は、性格や家庭環境、年齢などによって変わる。大切なのは、現在の自身がどんなスタンスで仕事に臨むべきだと考えているのかを正確に把握し、それにフィットした働き方に身を置くことだ。

本来の意識と逆の環境に身を投じることほど不幸なことはない。そういう意味で、誰かに「退職する」と言われた際、自分がどう返しているかを思い起こすことは、今の自分のキャリア観を知る上で、1つの材料になりそうである。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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