ファミレスで鍛える生産性 / 押し寄せる注文伝票、手は「空ける」もの

ファミレスで鍛える生産性 / 押し寄せる注文伝票、手は「空ける」もの

2022年4月24日

15年近く前、ファミリーレストランでアルバイトをした時期があった。いま振り返ると、仕事の生産性を上げるために必要な考え方を学べたので紹介したい。

提供はオーダーから8、12分以内/押し寄せる伝票

筆者が勤めた横浜市内のファミレスは業界大手の店で、当時はオーダーから料理提供までのタイムラグが「ランチは8分以内、ディナーは12分以内」と決まっていた

ファミレスはラッシュになるタイミングが決まっている。普段なら昼は正午から1時間だし、夜は19時ぐらいから。イレギュラーなケースで、サッカーの日本代表戦が終わった直後、急に店内が混雑することもあった。

筆者は当時、調理係をしていた。ラッシュ時は入り口のドアが開いたことを告げるチャイムが何度も鳴り響いた数分後、オーダーの書かれた伝票が堰を切ったように押し寄せる

難しいのは、ファミレスが多種多様な料理を扱うため、注文が細かく分散すること。ラーメン店のように「次の8人分の麺、計12玉をまとめて茹でよう」という方法はとれない。

特にラッシュ時は客みんながガッツリ食事をとりに来る。だから、それなりに時間をかけて調理する重めのメニューばかり注文される。

勤めたファミレスでは多くの料理が工場で半調理されており、ハンバーグは成形された状態で、タンドリーチキンは味付けされたパックで店に届いた。それでも、ハンバーグは店で焼いてからオーブンに入れるし、タンドリーチキンはレンジにかける時間が長い。

定期的に作業全体を見渡す

確かハンバーグは3分ほど焼き、コンベアー付きオーブンに4分ぐらい流していた。つまり、仕上げ作業だけで7分。前後の準備を含めると、合計で9分ぐらいかかる。

そうなると、12分以内に調理を完了して客へ提供するには、オーダーから3分以内に作り始めないといけない。オーダーが入った順番に調理していたら破綻する

重要なのは、次々と吐き出される伝票を、たまに見渡し、優先順位を確認して、調理に長い時間がかかるメニューには早めに着手するという工程だった。

仮に調理時間は長くても、オーブンの中にある時間は触る必要がない。その間に、盛り付けるだけで完成するサラダを作ったり、先行して調理を始めた他のメニューを仕上げたりする。それらが落ち着いた頃、オーブンから出てきたメニューに取り掛かる。

効率化が生む好循環

次に働いた居酒屋は新宿駅前の繁盛店だったが、とにかく要領の悪い調理担当の正社員がいた。注文が入ってきた順番でしか着手できない。だからオーダーから10分が経ち、やっと「こんな調理時間のかかるメニューが入っていたのか!」と気付く始末だった。

その人はバタバタと動き回り、いつも忙しそう。しかし、隣にいる調理長は、より多くの注文をさばきながら、カウンター越しに客と話す余裕があった。合間にスタッフともコミュニケーションをとり、慕われていた。仕事にムダがないからこそ無駄話ができ、それが良い方向に跳ね返る好循環を感じた。

その数年後、新聞社に入ると、同様の光景を目にする。

生焼けのハンバーグを あなたに

例えば、日中はタバコを吸うか机に座っているかの社員。「どうせ深夜まで会社にいるから」と、午前でもできる仕事を後回しにし、夕方に重い腰を上げる。でも、夕方は夕方で新たな仕事が増えるし、電話で取材するにも相手は退社しているのでイチイチ手間取り、目の前に仕事が山積みになる。

すると、こちらへ仕事を持ってきて「参ったよ」という顔で言う。

「手、空いてるよね?」

いいえ、手は「空いてる」のではなく「空けてる」んです。なぜなら、あなたが夕方から稼働し、手に負えないと投げ出すのが分かっているから。本当に参っているのは、コチラです。

こういった類の人は、仕事の目的を作業の完了ではなく「汗をかくこと」にしがち。着手のタイミングが遅いため実際の作業時間は短い。何なら、早めに取り掛かり、細切れの時間を活用して修正を加えた人の方が長く案件に向き合う。そのくせ「忙しくない同僚」の手を借りるのを当然と思い、自分は「精いっぱいやったから、この出来で許して」と言い訳付きの成果物を出す。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

これをファミレスに例え直すと、どうなるか。「オーダーから12分以内に提供しろと言われたけど、注文が集中したから、生焼けのハンバーグだけど我慢して食べてよ」みたいな感じ。

そんなの、誰が許すか。

おそらく、世の多くの会社で類似の事例がある。大切なのは、流した汗の量ではなく、むしろどれだけ汗を流さずにパフォーマンスを出すかという視点で、そのためには広い視野で周囲の同僚を含む全体の仕事を見渡し、優先順位を意識して作業を進めることが不可欠だろう。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、地元新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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