不動産業のマムファミリー(名古屋市)は30日、金沢市の近江町市場に近い同市下堤町で12階建ての新築ホテル「VACATION RENT金沢」をプレオープンさせる。
ホームページによると、全室にキッチンが標準装備され、調理器具や食器も備えている。各部屋の浴室は広く、無料インターネット環境や無料Wi-Fi環境も整えている。
近江町市場が近い立地であることから、場合によっては市場で買った海産物を客室で調理することもありそうだ。一方で全室に洗濯機があることからも、近年みられる「長期滞在型」「体験型」の宿泊施設と言える。
客室は5台のベッドが入る部屋もあり、2~12階に4室ずつあるようだ。料金は最も小さな部屋で1人利用なら約1万円から。宿泊予約を「Airbnb(エアービーアンドビー)」経由で受け付けている辺りが、いまにも現代風である。
写真の通り、間口は狭いが奥行のある土地・建物となっている。
もともとは金沢駅西に本社を移した「しん証券さかもと」(金沢市)の旧本社があった場所。と言っても、一般の人はなかなか証券会社に行くことがないだろう。1階に「喫茶うらら」が入っていたビルがあった場所、と言えば分かる方もいるかも知れない。百万石通りから尾張町や大手町方向に入る道路沿いにある。
そのビルを建て替えてできたのが「VACATION RENT金沢」だ。
近年の金沢では「滞在」「体験」をキーワードにした宿泊施設が増えている。思いつく限り、幾つか列挙してみる。
2020年8月にオープンしたのは、国際ブランドの滞在型ホテル「ハイアットハウス金沢」。金沢駅金沢港口(西口)から雨に濡れず行き来できる立地で、キッチン付きの部屋に「30泊」するプランも販売されている。
20年2月には南町に「東急ステイ金沢」ができた。全室に電子レンジや洗濯乾燥機を備え、6泊以内か7泊以上かで清掃の頻度が異なるなど、長期滞在を前提とした設備・サービスを展開。多くの部屋にはミニキッチンがある。
17年12月には近江町市場に近い尾張町1丁目に「エンブレムステイ金沢」が開業した(今は運営会社が代わって「Linnas Kanazawa(リンナスカナザワ)」として営業中)。新聞記者として取材したオープン時、1階に大きな「シェアキッチン」があって「市場で買った魚介類をみんなで調理する」と説明を受け、ワクワクしたのを覚えている。
これも「宿泊施設」と呼ぶ??
旧エンブレムステイ金沢ができた当時は「これはベッドのついでにキッチンが付いているのか?」「キッチンのついでにベッドが付いているのか?」「そんな疑問が出る時点で、ひとくくりに『宿泊施設』と呼ぶべきではないかもしれない」と考えた。
滞在や体験といった機能を高めると、宿泊施設は単に寝泊りする場所ではなくなる。そこは料理に挑戦する場であり、旅の情報を収集・整理する場であり、たまたま居合わせた人と交流する場である。自分のオフィスにもなれば、自宅代わりにもなる。
例えば、海上を移動するだけなら、漁船でも手漕ぎボートでも構わない。それでも数万円を払ってクルーズ船に乗る人がいる?
もちろん、クルーズ船愛好者は移動手段に大金を投じるわけではない。移動しながら余暇や娯楽を楽しめる空間や体験に金を払う。
だから船内で働く人は職業分類上は「船員」でも、内実は総合サービス業のスタッフだ。
そう考えると「飛鳥Ⅱ」のスタッフのライバル視すべきは「ダイヤモンド・プリンセス」ではなく、有名歌手のディナーショーや東京ディズニーランドかも知れない。
同様に、金沢のホテルのライバルは、近隣のホテルではなく、実は金沢21世紀美術館や兼六園になりつつあるのかも知れない。
そういう意味で、近江町市場の近くに12階建ての「ベッド付きプライベートキッチン」を設ける試みは、ライバルになりかけた相手を味方に取り込み、共存を図る戦略と捉えることもできるのではないだろうか。