5歳の長男はカマキリが好きで、毎年、捕まえては虫かごで飼育している。幼いなりに世話をしようと張り切るが、冬を待たず死なせてしまうことが続いていた。
だが、今年(2022年)は違った。幼稚園から帰ったら近所の空き地へ行き、クモや小さなバッタを捕まえ、エサとして与えていた。
秋が過ぎ、草むらから虫の声が聞こえない時期になった。どれだけ探してもエサが見つからない中、長男と話し合ってカマキリを野に放すと決めた。
もうすぐ冬本番だ。いずれにせよ、カマキリは長く生きられないだろう。
カマキリにとって何が幸せかは分からない。しかし、昨年までのカマキリのおかげで、今年のカマキリは狭い虫かごで餓死するのではなく、自然の中で生命をまっとうできる。
さて、住宅街にある我が家の庭先でカマキリを放そうとすると、長男が口を開いた。
「ここじゃ、カマキリさん、車にひかれちゃうよ」
「草むらまで行って放してあげようよ」
寒空のもと、親子ふたり。少し温かな気持ちで、カマキリを見送った。