JR西日本は2022年12月1日、各種の気象予報データとAI(人工知能)を活用し、走行する北陸新幹線の車両(台車部分)に付着する雪の量を予測する仕組みの運用を始める。予測の精度を高めることで、業務効率を上げる狙いがある。
「『空振り』を減らしたい!」/ 何それ?
11月30日にオンラインで開かれた記者会見。「AI着雪量予測モデル」の導入に当たり、JR西日本の担当者は「これまでたまにあった『空振り』を減らしたい!」と説明した。
「空振り」とは何か。
これまでJR西日本では、降雪予報を受け、線路上の積雪量が基準を越えると判断すると、糸魚川駅上りホームに係員が待機し、車両の到着を待って雪を落とす作業に汗を流していた。
ところが、実際には想定したほど雪が降らず、係員が集まったのに作業がない「空振り」がちょくちょく発生したらしい。
しかも、この雪落とし作業は糸魚川駅で実施する関係で、本来なら糸魚川駅に停車しない速達型新幹線「かがやき」も臨時に止まらざるを得ない。そのため、ダイヤに遅れが生じることも。「嵐でも雪でも定時運行」が売りでもある北陸新幹線には痛いロスである。
「空振り」を防ぐことは、結果として余計になる人件費を抑え、新幹線運行の安定性を増すことにつながる。
7種類の気象予報データを活用
AI着雪量予測モデルでは、天気や気温、風向き、風速など7種類の気象予報データを活用し、雪落とし作業が必要かどうかを割り出す。最終的には白山市の白山総合車両所でデータを精査し、要・不要を判断する。
着雪量を予測するアイデアを公募し、優秀だった社外からの2件、社内からの1件を採用した。それら3件を組み合わせ、今回のモデルを作り上げたという。
今後は12月1日からの運用で画像分析AIが得たデータも再学習に生かし、さらにモデルの予測精度を高めていく。
21年度の試験運用、6回の空振りを回避
JR西日本によると、降雪予報を活用した従来の判断方法で雪落とし作業が必要だとされる日数は、1シーズンに30日前後ある。
2021年度で言うと、従来の方法で雪落としが必要だとされたのは32日分だった。
一方、試験運用中のAI着雪量予測モデルが必要だと判断したのは26日分のみ。つまり、新しい仕組みの導入により、6回の「空振り」を回避できたということだ。
この雪落とし作業には27人(24人の作業員、3人の監督者)が必要となる。これだけの人数が「集まったはいいものの、結局することがなかった」という事態を避けられるのは、業務効率、経費の両面から見て効果が大きそうだ。
数年前、東京から初めて北陸に赴任してきたビジネスマンにインタビューして「冬の北陸は雪に閉ざされると思っていた。でも、歩道にも車道にも消雪装置があり、少しの雪なら不便なく動けることに驚いた」と大真面目に言われ、唖然としたことがある。
この極端な発言が教えてくれるのは、非豪雪地帯の人にとって「雪でも快適に移動できる」ことが地域を評価する1つのポイントにもなるということだろう。そういう意味では、今回のJR西日本の取り組みは意義深いものと言える。