取材先と適切な距離を /日テレ系「オモウマい店」/「能登→名古屋」を送迎させる姿に唖然

取材先と適切な距離を /日テレ系「オモウマい店」/「能登→名古屋」を送迎させる姿に唖然

2022年8月23日

2022年8月23日夜に日本テレビ系列で放送された番組「オモウマい店」。石川県能登町の寿司店が舞台なので視聴した。地元の話という贔屓目もあってか、全体的には面白かったのだが、最後にどうしても疑問の残る場面があった。

密着取材を終えたディレクターとアシスタントディレクターは、帰社のため、寿司店の主人に車で送迎される。しかも、能登町から名古屋市まで5時間(約350㎞)の道のりを。それをスタジオでは「優しい」と感心し、笑ってもいた。

いや、寿司店の主人の性格うんぬんではなく、平気で5時間の道のりを送迎させる取材者の姿勢は適切なのか?その光景はテレビで流すべきなのだろうか?

350㎞も送迎されるのは「常識的」か

取材者と取材先は適切な距離を保つことが大切だ。例えば筆者が地方紙に身を置いていた時は、接待の機会も、土産をもらうことも多かった。

ただ、それが常識の範囲を外れると、一応「第三者」的な機関としての信頼が揺らぎ「過剰な利益を供与されて、何か手心を加えたんだろう」と言われかねない。

これは取材者にも取材先にも不幸なこと。疑問を持たれる行為は慎むが吉である。

制作側は名古屋まで送ってもらうことを「取材」と認識して「350㎞を送ってくれる人=心優しい人柄」と伝えたかったと強弁するかも知れない。でも、今回は手法が度を越していたが故に、途端に全体が嘘くさく見えたのは筆者だけだろうか。

それだけではない。

2014年、星稜サッカー監督がマスコミの車で事故に

今回と立場は逆だが、2014年末、テレビ金沢(日テレ系)のアナウンサーが星稜高校サッカー部の監督(当時)を乗せて車を運転中、交通事故を起こした。

ちょうど星稜高校サッカー部は関東での「全国高校サッカー選手権」を間近に控えていたが、監督は愛知県内で入院。結局、監督は病院で星稜サッカー初の全国制覇を観ることになった。

取材していると、いつの間にか深みに足を入れているもの。でも、ここで言いたいのは「取材」にかこつけて「責任をとれない」「責任をとってもらえない」距離感まで踏み込んではいけないということだ。

能登町から名古屋市まで5時間で行く場合、信号機のある普通の道路を走るのはせいぜい1時間で、あと4時間は高速自動車道・自動車専用道路。スピードの出る道路で事故があったら人命にかかわるなんて、子どもでも分かる。

万が一のことが起こった後に「取材の御礼に、と厚意から車で送った」「それなら仕方ない。死んだ彼も感謝しているはず」となるか。なるはずがない。

取材先に「送るよ」と言われたら「タクシーで移動する決まりなので大丈夫です」などと返すべき。それが回りまわって、世話になった取材先のためにもなる。

筆者が少年の頃、サッカークラブの試合会場への送迎は保護者が交代で請け負っていた。しかし、現代では「何かあったら責任がとれない」とマイクロバスを借りるチームもあるらしい。

そんな時代にマスメディアがこんな取材姿勢で良いのだろうか。せっかく安くて美味しそうな寿司の話だったのに、後味はすこぶる悪かった。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、地元新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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