日本銀行は、金沢市広岡3丁目に移転する金沢支店の建設工事を2021年10月中に始めると発表した。プレスリリースでは、外観のイメージ図が初めて披露されている。
新支店はもともとJRグループの社宅があった金沢駅金沢港口(西口)に建設する。
開発計画によると、敷地面積は5650平方メートルで、建物は鉄骨鉄筋コンクリート造3階建て、延べ床面積は6937平方メートル。
プレスリリースによると、月内に工事に入り、全体が完成するのは2023年秋ごろ。つまり、ちょうど2年後である。
「割り切り感」強く
建物の特徴は「内装の一部に地元産材を使う」「バリアフリー設計」などとしているが、どれも今どき当たり前。もっとも、一般人が通う場所ではないので、特別な装飾も機能も不要か。
新支店では、そういった「割り切り感」が強く感じられる。例えば、上のイメージ図。何の変哲もない普通のオフィスビルだ。地元の新聞は「重厚」と表現していたが、どこをどう見れば重厚なのか理解できない。その辺の中堅企業のオフィスと何も変わりはしない。
それと言うのも、金沢市香林坊2丁目にある今の金沢支店は、確か文化財的なものには登録されていないが、旧市街地の大通り沿いにあり、少し威圧感すらあるような建物だからである。特に表の百万石通りから見ると、窓が一つもないあたり、どこか不気味だった。
筆者は記者として何度か内部に入ったことがあるが、普通は足を踏みいれることはないだろう。
それでも、みんなが何となく馴染みがあるのは、ちょうど目の前が香林坊のバス停で向かいが香林坊大和のため、バスが来るのを待っている間や大和を出て信号待ちをしている際に目にすることの多い建物だったからだ。
ところが、移転先は金沢駅に近いものの、裏通りにしか面していない。今のJRグループ社宅跡地は開発が本格化していないので、それなりに見晴らしが良く、近くを通れば見つけられるかも知れないが、基本的には目立たないヒッソリとした場所だ。大通り側で建設中のオフィスビル、計画凍結中のホテルが完成すれば、づくなくとも大通りから見た存在感はないだろう。
これも上述のように、一般の人が通う場所ではないので、アクセスを気にする必要はない、という価値判断だと思う。
ごもっとも、としか言いようがないが、今の金沢支店を知っていると、やはりどこか寂しさを感じる人は多いのではないだろうか。
現支店跡地は金沢市が取得?
ここまで書いてきて何だが、実は新支店の概要よりも世間の関心が高いだろうと思うのが、現支店跡地の行く末である。
現支店は香林坊交差点の近くにある。向かいは香林坊大和、隣は金沢東急ホテル&金沢東急スクエアだ。数年前から地価の最高地点を金沢駅前に奪われているが、一定の年齢以上の人にとって、現支店の立地は「街のど真ん中」。去就が注目されるのも無理はない。
さて、この跡地活用に関しては地元経済界と金沢市の間で駆け引きが続いている。議論を見ていると、経済界は「市が買って責任をもって開発しろ」と口だけ出して自分たちは何もせずに市側に押し付け、市側は「関心を持って研究したい」などと明言を避けている状況のように見える。
筆者としては市による取得に反対である。確かに金沢21世紀美術館という成功例はあるが、あれは「あまりに稀有な成功例」だから、全国から注目された。裏を返せば、行政が深く関わっても、多くは街の発展にはつながらないということだ。
よくあるのは、廃れた商業施設の空きテナントとして、行政センターのようなものが置かれる例。最悪だ。街のにぎわいとは「絶えず人が来て、みんな楽しそうな顔で歩いていて、そこにいると自分も何だか気分が高鳴って消費する、だから店が増えて、人が来て…」という循環で成り立つ。
行政センターや工芸のミニ美術館のようなものを作っても、地元の人が必要に迫られてたまに行くか、年配の観光客が何となく立ち寄る施設が増えるだけだ。それを「にぎわい」と呼ぶだろうか。
民間の力で斬新な発想を
香林坊近辺の求心力は年々低下を続けている。ここで必要なのは、役所的な発想の枠内で、市中心部に空いた土地を埋める方法を考えることではない。民間の斬新なアイデアを集め、周囲が驚くような街づくりを進めることで、香林坊~片町の再活性化を進めることだ。
例えば、西金沢駅近くで計画が浮上したものの住民が反対しているライブホールの「Zepp」。仕事帰りに使えるバスケットやフットサルのコートが多層階に連なるスポーツ施設などだ。
日銀移転まで、あと2年。「ああ、そういう感じね。はいはい」という活用例ではなく、みんなが驚くような活用案が、民間側から提示されることを願っている。