地方紙1面「泉丘への進学者数1位は2年連続で兼六中」に見る違和感/義務教育でしょ?泉丘って偉いの?人数で比較するの?

地方紙1面「泉丘への進学者数1位は2年連続で兼六中」に見る違和感/義務教育でしょ?泉丘って偉いの?人数で比較するの?

2023年8月16日

2023年8月16日、石川県内で地方新聞1面に驚愕の記事が載り、県民に激震が走った。「新聞社の調べ」により、23年春、県立高校で最も偏差値の高い泉丘高校に進学した人数が多い公立中学校は、金沢市立兼六中学校だと分かったそうだ。

……うん???

突っ込みどころが多すぎて脱力感にさいなまれる。

まず、中学校は義務教育であり、公立中学校はさまざまな事情を抱える地域の子どもたちに、一定レベルの教育を提供するのが使命のはず。それを特定の高校への「進学実績」という切り口だけで比べることは、良識ある大人の振る舞いとして正しいだろうか?

しかも、あたかも全県民が泉丘高校に憧れているかのような前提である。そもそも、石川県で最も偏差値水準が高いのは金沢大学附属だろうに、なぜ泉丘が基準なんだ(新聞社の会長、副会長の母校が泉丘だからなんだろうけど…)。

高校生は雨の日も雪の日も、電車やバス、自転車で通学する。もし、すごく勉強のできる子どもが東金沢駅あたりに住んでいたら、近場の桜丘や星稜に進むかもしれない。そんな地理条件も無視して「泉丘進学者=人生の勝者」ぐらいの書きぶりには違和感しかない。

大学入試なら話は別

これが大学入試であれば、話は変わる。

多くの場合、大人になって略歴に書くのは最終学歴だけだし、国内で最も優秀なのが東京大学であることに争いはない。進学校の高校は大学へのステップであり、生徒は少しでも偏差値上位の大学を目指す前提・傾向があるから、大学への合格実績を比べる意味は大きく、抵抗感はない。

でも、義務教育の公立中学はみんなが偏差値上位の高校を目指すわけではない。しかも、進路指導の教員のスタンスによってもブレる。高校別の大学進学実績をマネたつもりだろうが、本質的に条件が違いすぎる。

「進学者数」で比べるナンセンスさ

1億歩ゆずって「泉丘への進学」が全県民が熱望する最終目標だとしよう。それにしても、なぜ「進学者数」を比べるのか。実数で比べたら、生徒数が多い学校ほど上位になりやすいに決まっている。

読み書き能力、日本はインドに完敗!?

日本の識字率は99%。つまり、日本国内に読み書きできる人は1.2億人いることになる。一方、インドは識字率が62%らしい。読み書きできない人は5.3億人いて、できる人は8.7億人いる計算だ。

極論すると、この新聞が言っているのは、上の数値を基にして「インドの方が読み書きできる人数が多いから教育レベルが高い」ということ。そんなアホな…。

そこで、新聞に出ていた公立中学校のみを対象に、泉丘への「進学率」を算出し、並べ替えてみた。

金沢大学附属中は附属高への内部進学も多い特殊な学校なので除外

「2年連続で1位」ともてはやされた兼六中は、紙面で、校長や「塾関係者」が意識の高さや教育熱心な家庭の多さを指摘しているが、進学率で言えば3位である。それを分かっているからか、校長のコメントは控えめだ(詳しくは紙面を参照)。

一方で「塾関係者」は兼六や野田について「親が金大や金大附属病院に勤務する家庭が多い」から泉丘に進学する子が多いと言ったらしい。が、進学率では川北町の川北中学校と大差ない。川北町に金大や金大病院で働く人は住んでいないだろう。「塾関係者」はどう説明するのか。「塾関係者」って誰?

注意したいのは、仮に1学年5人の小規模な中学校があり、そのうち4人が泉丘に進んだら進学率は80%だが、新聞の「ランキング」では無視される。これで公平公正な調査と言えるだろうか?

しかも前年と比べるって破綻しすぎ

極めつけに「兼六は33人で、昨年の26人から伸ばして…」といった趣旨の記述を目にした際は、時空が歪んだかと思うぐらいの衝撃を脳に受けた。

だって、分母となる1学年の生徒数は前年と違うわけで、分母が違う中で分子(進学者数)同士を比べるなんて、破綻しすぎていて言葉を失う。

これは「2/3と3/5のどちらが大きいか」という問いに、分子だけ見て「2より3の方が大きいから、3/5の方が大きい!」と答えるようなもの。日本の小学校では分母を15にそろえて比べることを学ぶので「10/15と9/15だから、2/3の方が大きい」と分かるはずなのに。

この新聞では以前、ドラッグストアの出店ペースを「増加率」で比べて「出店ペース鈍化顕著」みたいな記事を掲載していた。「飽和状態へ」という結論ありきの酷い記事だった。

そこで、当サイトでは「分母が大きくなれば、率は鈍って当たり前。店舗数は実数で見るべき。実数はコンスタントに増えている」と書いた。

ドラッグストアの出店ペースが「鈍化顕著」? /新聞報道を受けて調べたら「一定」だった件

2022年7月21日付の北國新聞朝刊に「石川、富山のドラッグストア 出店ペース鈍…
connect-u.biz

どうして、実数で書くべき場合と率で書くべき場合が全く区別できないのだろう?

どこに本質があるかを理解すれば、どう比較し、どう書けば良いか分かるはず。それを何となく書いてしまうから、読者から「この記事、何が言いたいの?」「数字は並んでるけど、どんな意味があるの?」と首を傾げられるのだろう。


もしも、この記事を読んでくれた中高生がいるとしたら、中高生の2倍ちょっと生きた身として伝えたい。

どこの学校に進むかで、キミの価値は決まらない。生まれた地域とか、今から変えられないものにこだわるな。高校なんて単なる通過点にすぎない。大人の凝り固まった押し付けに惑わされず、自信をもち、毎日を全力で楽しんでほしい。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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