2022年7月21日付の北國新聞朝刊に「石川、富山のドラッグストア 出店ペース鈍化顕著」という記事があった。そこら中にドラッグストアがオープンしている状況下で「本当に?」と違和感を抱いた読者も多かっただろう。そこで、記事に引用された統計を筆者が見てみると、出店ペースは一定であることが分かった。
新聞記事で使われたのは経済産業省の商業動態統計。こういった統計を見る際は、単位とする期間が短すぎても長すぎても正確に動向を把握できない。今回は石川、富山両県の店舗数を、3カ月ごとにまとめてグラフにしてみた。
店舗数は2019年終わり頃から、ほぼ一定の調子で右肩上がりに増えている。平均すれば3カ月当たり10店前後の増加ペースになるだろうか。最も右の棒は6月のデータにすべきだが、5月分までしか公表されていないので5月分を使用。6月分ならもう少し多いか。
ちなみに、コロナ禍入り直前の2019年12月以降の推移は、以下のグラフのようになる。
これを見て、少なくとも「顕著に鈍化している」と感じる人はいないだろう。
誤認の理由は2つ
なぜ、こんな誤認が生じるのか。書き手がどこまで数字を理解し、どこまで「わざと」(意味は後述)なのかは分からないが、見る限りは理由が2つ考えられる。
① まず、記事では「石川県の店舗増加率は7.9%」とある。唐突に出てくる「店舗増加率」なるワードが何を示すのかが分からないし、それがどんな数字と比べて「鈍化」と言えるのかも不明。何よりも「率」というのは母数が大きくなればなるほど変化しにくくなるという性質を考慮していないようだ。
例えば、100店から10店増えたら「10%増」だが、1,000店から10店増えても「1%増」にすぎない。むしろ、世の中の人からすれば、1,000店もあるところへさらに10店増える方が驚きは大きいかも知れないのに、である。
人は「近所に2店増えて6店になった」と認識するもの。「近所にある店が50%増えた」と考える人は稀だという点からも「率」を尺度にするおかしさが分かるはず。
② 次に、のっけから「これまで全国有数の高さだった石川県の店舗増加率」が「全国9番目」になったという記述があり、出店ペースが鈍化していることを臭わせる。ただ、もちろん「全国順位」と「出店ペース」には、何ら相関関係はない。
例えば、学生がテストで80点を取ったとして、それが平均点30点のテストなら学年トップかも。でも、それが平均点70点のテストなら学年で真ん中ぐらいの順位になる。
「順位」は相対的なもの。「住みよさ日本一」の街で、来る日も来る日も不幸を感じている人だっているはず。順位なんて、ある面では単なる目安、話のネタにすぎない。
そもそも、何を思って「店舗増加率」という得体の知れない概念で比べるのか。
ランキングは、みんなが意識する指標で比較するから意味がある。②の例なら、点数を競った結果として自分の順位を把握できれば、志望校選びの目安にできる。その時、隣の同級生が「前回が10点、今回が90点だから、増加率は800%!これは全国トップだ!」と威張っていても相手にしないだろう。
誰も気にしていない指標が、どんな値で、全国で何位だろうと、どうでもいい。
「数字はウソをつかない」からこそ…
厳しい口調になったものの、正論しか書いていないと断言できる。
数字はウソをつかない。だからこそ、それを活用する人は、その数字が意味するところを正しく読み解かないといけない。
自戒も込めて言うと、マスコミをはじめ情報発信者は「もっとセンセーショナルに見せたい」「自分の主張を補うデータがほしい」と考える余り、一部の数字だけを作為的に切り取り、結論ありきの記事を書いてしまうことがある。そのくせ「だって、数字が平凡だから」と言い訳する。平凡なのは書き手の能力の方なのに。
もっとも、それは発信に積極的になればなるほど出る「病」のようなもの。読み手は、ある程度は仕方ないと割り切るのが賢明か。そして、目にした情報に踊らされず、可能な範囲で複数の記事に当たるなり、1次情報にアクセスするなりすべきだろう。
※最後に、北陸3県のドラッグストア店舗数のグラフも載せておく。