連載【洋菓子「ノルマン」復活】㊤ 2023年11月23日に再オープンへ/西金沢駅前/火災による営業休止から半年

連載【洋菓子「ノルマン」復活】㊤ 2023年11月23日に再オープンへ/西金沢駅前/火災による営業休止から半年

2023年10月4日

隣家の失火によって営業休止していた洋菓子店「ノルマン」(金沢市米泉町7丁目)が、2023年11月23日に再オープンする。店が焼失して半年。一度は移転案も浮かんだが、創業から50年以上にわたり根を張った西金沢の地に留まることにした。

もっとも、この半世紀の間に地域の洋菓子店を巡る環境は大きく変わっている。そこで、立地こそ変わらないものの、これを機に商品ラインナップや店舗形態を見直し、より付加価値の高い「新生ノルマン」としての再出発を目指す。

喫茶を閉店、テイクアウトに専念

ノルマンはもともと1971(昭和46)年に開店した。筆者の取材に応じてくれた3代目見習い・中村一貴さん(31)の祖父が創業し、西金沢エリアの洋菓子店として人気を博した。

ノルマンがあったのは2階建て3棟からなる長屋状の建物の真ん中。表通りから見て左の棟にはケーキバイキングが人気の「喫茶ノルマン」、右の棟に火元となったカメラ店が入っていた。

今回のリニューアルに当たっては、この喫茶ノルマンを閉店し、テイクアウト店に専念することに決めた。

工事中の部分が「新生ノルマン」になる。左が喫茶ノルマンだった

増える競合チェーン店

なぜ、テイクアウトのみに絞るのか。その理由を、中村さんは「いま一度、競合の関係などを見つめ、店の方向性に手を加えたいと考えた」と説明する。

半世紀前の金沢では、洋菓子店に限らず、日常の買い物場所として個人商店が強い影響力を持っていた。個人商店の主な競合相手は個人商店で、そういう意味では同じような境遇の相手と競っていたわけだ。

ところが、今日の私たちの買い物環境は大きく変わった。どの業界でもチェーン店が地方へ進出し、個人商店は次々と駆逐され、チェーン店同士でしのぎを削っている。

チェーン化には、知名度の向上やスケールメリットを生かした価格抑制といった効果がある。個人商店は特定エリアでチェーン店より知名度が高いとしても、価格では対抗できない。たとえば、国内外900店を持つ洋菓子店「シャトレーゼ」と個人経営の洋菓子店では、仕入れ時の交渉力が段違いだからだ。

中村さんによると、喫茶ノルマンはケーキバイキングが人気で、なるべく低価格でバイキングを提供するには、ケーキの原価を抑える必要があった。しかし、上記のような理由があるため、シャトレーゼや不二家のような大手チェーンには「コスパ」で対抗できない。

ノルマンにとって、この休業期間は外部環境の変化と向き合う機会になったという。その中で、父は新しい店づくりを息子に任せた。では、その息子たる3代目見習いは、何をどうしようというのだろうか。

焼き菓子に本格進出、サービスに注力

まず、価格帯は従来のノルマンと比べて少し上げ、常連客に配慮しながらも、付加価値の高い商品づくりに舵を切る。

その現れとして、たとえば焼き菓子に本格進出する。

ケーキはデリケートで、保管には冷蔵できる環境が必要になる。そのため、相手の状況が分からないケースでは、手土産として持っていきにくい。ダイエット中の人に贈ると、かえって困惑されることもあり、シーンの制約が多い。

この点、焼き菓子は常温で日持ちする。もらった菓子を、さらに誰かに譲るのも容易だ。そういう意味で、ケーキと比べ、さまざまなシーンで活用が期待される。しかも、小売店に卸すというBtoB方向に事業を展開することもできる。

焼き菓子ではパッケージのデザインなどを通し、ノルマンのブランドを強く印象付ける工夫を凝らす。この「パッケージ」はケーキに存在しないもの。焼き菓子を始めるからこそ実現できる手法だという。

(焼き菓子の第1弾は火災で亡くなった愛猫にまつわる新商品で、取材時に内容を教えていただいたのですが、せっかくなので詳細は来店してのお楽しみ、ということで)

また、従来、テイクアウトのノルマンと喫茶ノルマンを運営するには、人員や動線的に厳しいところがあった。中村さんは「味が良く、見た目が良かったとしても、接客が今一つだと、結局は悪い印象を与えてしまう」と話す。

商品ラインナップや店のあり方を現代に合うよう軌道修正するというターニングポイントに際し、新しいことに挑戦するあまりサービスが中途半端になってしまうのは避けたい。そこで、まずはテイクアウト店に持てるリソースを集中させることにしたそうだ。

プレオープンは11月18、19日

さて「新生ノルマン」は2023年11月23日のグランドオープンを前にした18、19日、プレオープンとして10時から営業する。プレオープンは誰でも来店でき、商品が売り切れたら終了する。


「それにしても」と取材の最後に、筆者は切り出してみた。「店が水浸しになる火事があって、よく半年で復活できたな、って、お客さんは思うんじゃないですか?」

すると、中村さんは少し首を傾げて「でも、中には『まだ?』『まだなの?』って言ってくる方もいまして…」と笑った。困ったような、嬉しいような表情だった。

再オープンを待ち望む人がいる。再オープンに賭ける人がいる。半年間のブランクを超え、新しいノルマンは、きっと両者を強く結び付けるだろう。

連載【洋菓子「ノルマン」復活】㊦ は以下のリンクから

連載【洋菓子「ノルマン」復活】㊦ 水浸しからの再スタート/西金沢駅前/「仕事も家も、一夜で全てを失ってしまった…」

火災による半年間の営業休止を経て、2023年11月23日に復活する西金沢駅前の老…
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国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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