ダブルチェックは無意味 / 富山県の新田知事、相次ぐ情報管理ミスに「理由分からないがチェック徹底」?

ダブルチェックは無意味 / 富山県の新田知事、相次ぐ情報管理ミスに「理由分からないがチェック徹底」?

2022年5月18日

富山テレビの2022年5月17日夕方の報道によると、富山県の新田八朗知事は5カ月連続で起きた県職員の情報管理ミスを陳謝した上で「理由ははっきりしないが、ダブルチェックを徹底する」と述べたらしい。

富山テレビの記事は以下のリンクから。

https://www.fnn.jp/articles/-/361589

筆者が勤めていた新聞社でも常々「ダブルチェックしろ」と言われた。ただ、筆者は退職前2年間、ほぼ従わなかった。基本的に無意味だと思ったからだ。

例えば、決算の記事。当時の先輩が「ダブルチェックするよ」と資料を持っていき、しばらくして「よく書けてるね」と戻してくる。次に自分で記事内容をチェックすると、何カ所も誤りが見つかる、といったことが何度かあった。

チェック機能が働かなかった理由は、おそらく2つ。

①他のチェック役が資料の読み方を熟知していない

②結局は他人事であり、形式上、目を通しただけ

①はチェックを頼む人を間違えたということだが、当時の筆者はチェックを依頼するとしたら、その先輩しかいなかった。だから、自分で何度もチェックするようにした。

②はチェック役がトラブル時に「ちゃんとダブルチェックはしましたが…」と自分を守る言い訳をつくりたいだけ。当事者意識など皆無で、その先輩はミスを正すことではなく「チェックすること」がゴールになっていたのだろう。だから、自分で何度もチェックするようにした。

※一部には、筆者の原稿を、まるで自分が書いたかのように真剣に読み、疑問点やミスを指摘してくれた先輩・上司がいたことも書いておく。

官僚制の逆機能

今回の新田知事の発言からは、この②に近い印象を受けた。

組織論で「官僚制の逆機能」という考えがある。頑張っている公務員がいるのを承知で言うと、官僚組織は「手続き万能主義」「セクショナリズム」などに陥りやすい。

つまり、手続きの遵守が優先され、そもそも手続きの内容が望ましいのか、その手続きが何のためにあるのか、といった点が顧みられない。また、自分(の部署)のことばかり考え、他のことに関心を示さず「部分最適」に終始する。

今回の報道内容を見る限り、失礼な言い方をすると、ミスの本来的な原因究明もそこそこに、とりあえず何かあった時のために「やってる(やってた)感」を出そうとしているようにも映る。

これでは原因は放置され、真面目な職員は「何はあさておきダブルチェックだ」に終始しかねない。慢性的な頭痛に悩まされている人が、実は脳に大きな病気を抱えているのに、検査もそこそこに「毎朝ちゃんとバファリン飲めよ」「もちろん、2錠飲みます!」とやり取りしているようなものだ。

「私は民間企業出身」と売り文句にしてきた知事の割に、そのまんま官僚制の逆機能を絵に描いたような対策なのは、どうしたものか。

「他人事」を「自分事」にする

形だけ取り組む人ほど助けにもならない存在はない。官僚制の逆機能には責任の所在があいまいという背景があるのだから「他人事」を「自分事」に置き換える仕組みを考えないと、チェック機能は果たせない。

例えば「チェック」という枠を超え、連名で仕事をしたことにして共同責任であると明記するとか、ミスの事前発見に対して報酬を付与するとか、いっそ「チェック」専門の役回りを設けるとか。

最後に新聞社の例へ戻る。あまりにミスが頻出した時期があり、社内で「ダブルチェック徹底を」の号令が出た。それでも紙面には頻繁に「訂正」「お詫び」が載った。すると「もっとダブルチェック徹底を」の号令が出た。それでも紙面には……。

「ダブルチェック」を目的化した部下、「『ダブルチェック徹底を』と言うこと」で満足する上司。誰も「ダブルチェック」の有用性の有無に触れないこと自体、そもそもチェック機能が働いていなかったわけだ。

富山県庁がそうならないことを祈る。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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