筆者のように30代になると、子どもが大きくなったり部下ができたりする。親や上司が方向性を示してくれた頃と異なり、自分が方向性を示す側になり、慣れない環境に戸惑うことは多い。そんな時に参考になる1冊が「マインドセット『やればできる』の研究」だ。
単なる結果より「成長」に焦点を
著者は人が物事を見るスタンスを「硬直マインドセット」「しなやかマインドセット」に分ける。
筆者(私)の理解では、硬直マインドセットは自分の能力を一定のものとし、外部環境と比べた上で結果から評価を下す。一方、しなやかマインドセットは自分の能力は変化するものとみなし、成長度合いで今いる場所を把握する。
面白かったのは、後半にある「子どもを『賢い』と褒めてはいけない」という趣旨の記述。「賢い」というのは周囲との比較において優位ということを示し、既にゴールに到達している印象すら受けさせる。
一方、本書で推奨されるのは「努力したおかげで、この前から見れば、こんなことができるようになったね」という褒め方。目指すものに向け、何を考えて取り組み、過去の自分よりもどれだけ前に進んだかを認めてあげる、という言い方だ。
一本足打法の危うさ
筆者の経験則から言って、これはおそらく正しい。筆者は津幡町の公立小学校から、サッカー⇩さに国立の金沢大学附属中学校に入り、滑り止めがメインの私立星稜高校から、国立大学に落ちて慶應義塾大学、地元の新聞社に進んだ。
このラインナップを「硬直マインドセット」で進むと、どうなるか。田舎でもてはやされても、中学校に入ると成績は下から何番目。入った高校では一転してエリート扱いで、しかし大学に入ると全国から…という中で、極論すると自我が崩壊しそうだ。
「勉強が周囲よりできたかどうか」が唯一の評価軸という環境なら、そうなっただろうし、実際そんな同級生もいたように思う。
幸いにも、筆者はサッカーや美術など他に打ち込む対象があったゆえ「勉強なんて、昨日より新しいことを知れたら、それでいいじゃないか」というマインドを得られた。そのおかげで、今日も楽しく生きているし、38歳になっても自分なりに成長を感じている。
「ゴール」は揺れ動く
「ゴール」なんて人によって違うし、同じ人物であっても時期によって違う。
ゴールが動く度に必要な能力は変わるので、能力を固定化して考えると、いつか自分や方向を見失う。霧の中でも確実に把握できるのは、目指す方向へ、過去の自分よりも歩みを進められたかどうか、だ。答えがイエスなら、まず自分を認めた上で、さらに前を向ける。
着実に前進している実感があるから外部環境の変化に動じず、しなやかに生きられる。長い目で見るなら、自分に対しても、子どもに対しても、部下に対しても、焦点を当てるべきは結果だけではなく、成長ぶりや、それに向けた努力の過程なのだろう。