【総力特集】日本の親による子の命名、111年分の移り変わりまとめ/時代によって漢字、字数、母音の傾向に変化/名付けの参考に

【総力特集】日本の親による子の命名、111年分の移り変わりまとめ/時代によって漢字、字数、母音の傾向に変化/名付けの参考に

明治安田生命保険がまとめている生まれ年別の「名前ランキング2023」で、男の子は「碧」、女の子は「陽葵」が1位だった。

上位の名前を見ると、現在38歳の筆者の同級生にはいない名前ばかり。そこで、明治安田生命が公表する大正時代以降の111年分のランキングを半日かけて分析・分類し、いくつかの切り口から、時代ごとの特徴を探してみた。

本記事には名前の優劣を主張する意図はありません。また、膨大なデータを筆者1人で確認したため、塗り分けの漏れが多少あると思います。あらかじめご容赦ください。

分析対象は1912(明治45・大正1)年から2023(令和5)年まで。各年において、男の子、女の子ごとに多かった名前トップ10の傾向を調べた。

これから何枚か色分けした一覧表を掲載する。基本的には下の写真の通り、左の表にバブル景気前まで、右の表にバブル景気以後を並べる。それぞれの表は中央に年と主な出来事、左側に男の子のランキング、右側に女の子のランキングを掲載している。

子育て中の筆者にとって、名前というのは、その子が歩む未来を見据えた親が「こんな人間に育ってほしい」と願いを込めて贈るもの。だから、過去に人気だった名前を見れば、その時々の親たちが世間をどう見ていたか垣間見えるのでは?と考えた次第である。

①年号から1字とった名前

筆者の記憶をたどると、親戚が集まる席や年配の人が集まる取材現場では、たいてい「昭一」「昭」のように元号の「昭和」から1字とった名前、あるいは生まれ年の干支から1字とった名前のオジサンがいた。

そこで、まずは元号から1字もらった名前が各年でどれぐらい人気だったか調べた。

パッと見で分かる通り、男の子では大正~昭和初期にかけて「正」「昭」に一定の人気があった。そして、昭和にしろ平成にしろ、改元直後に新元号を絡めた名前がランクインしている。

一方、女の子は1927(昭和2)年~1952(昭和27)年の26年間のうち、実に23回も「和子」が1位となっている。「昭子」も3度ランクインした。

もっとも、男の子の「正」「平」、女の子の「和」あたりは字の意味がイメージしやすく、元号に関係なく名前に使いやすい。どこまでが元号の影響なのか、正確には分からないところがある。

上の表から確実に言えることがあるとすれば、時代が流れるにつれ、元号や生まれ年の干支が人気を得るムーブメントは薄れたということだろうか。

②昭和中盤まで圧倒「1文字の男の子」「〝子〟つく女の子」

2,000超も並ぶ名前の一覧表をぼんやりと眺めていると、いくつかの傾向に気づいた。

まず、青色に塗り分けた箇所は、大正の後半から昭和の中盤にかけ、圧倒的な人気を誇った名前だ。男の子でいう1字のみの名前、女の子でいう「子」がつく名前となる。

特に、女の子の「子」は圧倒的。大正10(1921)年から昭和31(1956)年まで、なんと36年連続でトップ10を独占している。

女の子、高度成長期に「子」から「美」へ

その「子」が付く名前が、少しずつ上位を明け渡し、代わりに赤色に塗り分けた箇所が増えていることが分かる。

この赤色の箇所は「美」のつく名前を示している。

筆者が注目したのは、その移り変わりが始まったタイミング。ちょうど高度経済成長期が始まり、国際連合にも加盟し、日本が経済的に豊かになるとともに国際的な影響力を増していく時代と重なっている。

これは若輩の推測になるけれど、経済成長に伴って余裕のある家庭が増え、社会的な明るさが出てきた。女性が社会に出る機会も増える中で「美しさ」の価値の比重が高まり、若い親たちは愛娘に(心身ともに)美しくあってほしいと願ったのではないだろうか。

「美」の付く名前は当初こそ「〇美」ばかりだが、次第に「美〇」のようにバリエーションが増えている。

女の子、バブル崩壊後は植物系が人気

女の子の名前は世相を反映しやすいのかも知れない。

筆者の感覚だと「子」というのは親がいてはじめて成り立つものであり、誰かに従うニュアンスがある字のように思う。その「子」が「美」になり、さらに「恵」「愛」など多様化を続けた。

その流れに大きな変化を及ぼしたのが、バブル景気の崩壊だ。

下の表でいう、女の子の緑色の箇所に注目いただきたい。

この緑色は「萌」「〇菜」「さくら」「〇花」など、おだやかな印象のある植物系の字を使った名前を塗り分けたもの。「美」が付くために赤色で塗ってある「美咲」(1991~96年の1位)は植物系にも重複して分類されるため、本来はもっと緑色が多くなる。

「ジャパン アズ ナンバーワン」と有頂天だったところから、一気に突き落とされた時代。次々と流れてくる暗いニュースを聞きながら、世の親たちは他人や社会に安らぎを与えられる人間になってほしい、と願ったのかもしれない。

男の子は「大」「太」が増加

この間の男の子の推移を見てみる。大正から昭和の半ばまでは、1文字の名前が圧倒的で、それに次いで、下の表で赤色になっている漢数字「一」「三」の入った名前が多くみられる。「一郎」「昭一」「三郎」などだ。

しかし「一」と「三」があるのに「二」がないのは何故だろう?

筆者が考えて出した結論は、二番目の男の子を意味する「二」は「二郎」「次郎」に分散していたから。当たりだと思うが、どうだろうか。

昭和の後半には「〇也」「〇樹」が勢いを増す。「哲也」「和也」「直樹」「英樹」などである。

その後に来るのが「大」「太」を使った名前で、上表の緑色の箇所に当たる。昭和の後半から増えたが、当初は「大輔」「大介」「健太」に集中。平成に入るころから多様化して「翔太」をはじめ「大樹」「大貴」「雄大」「亮太」などがランクインした。

平成の半ばからは「大翔」が一大勢力を築いた。筆者には「失われた30年」と言われて閉塞感が強い中、明るい未来を夢見て息子に「大きく」「太く」と名付けた親の心境が推察される。

男の子、再び1文字が多くなる

ただ、この「大」「太」も、日本国内で新型コロナウイルスが拡大し始めた2020年ごろからは上位に少なくなった。代わりに増えたのが青色で塗り分けた「蓮」「碧」「新」といった1文字の名前だ。

昭和の後半から減っていた1文字の名前が再び増えた。1文字の名前には中性的な響きがあり、ジェンダーレスやLGBTQと言っている時代が影響しているのかと想像しないわけでもないが、何か理由に思い当たる方は教えてください。

③戦時中の名付けは…

ここまで見てきたように、社会情勢は親の名付けに影響する。それを最も如実に表したのが戦争だろう。

下の表では太平洋戦争の前後を対象として、「勇」「武」「勝」など強いイメージの字を使った名前を赤色、「和」「豊」など穏やかだったり平和や勉学に関係したりしたイメージの字を使った名前を青色で塗り分けた。

(筆者の勝手な印象ですので、それぞれ異論反論はあると思いますが、参考として見てください)

特に男の子では、日中戦争が始まったあたりから、赤色の箇所が増えたことが分かる。アメリカと戦い始めてからは「勝」「勝利」が明らかに増えている。女の子でも戦争最終盤は「勝子」が4年連続でランクインしている。

1945(昭和20)年に敗戦すると、赤色の箇所はグッと減る。代わりに目立つのが「明」「勉」などだ。若者の世界観が大きく変わったことを想像させる。

④最後、これが今回の調査のキモ!

とまあ、ここまでの分析は誰かがやっていてもおかしくないが、最後の④こそ今回の記事のキモだと筆者は考えている。

それが「末尾に来る母音の分類」である。

小学1年の長男、年少児の長女を抱える筆者は、かねて気になっていた。「最近の男の子は『〇〇と』が多い。女の子は『〇〇な』が多い。どちらも自分の同級生にはあまりいなかったぞ」

そこで、字だけではなく、その時々に好まれていた「響き」を割り出そうと考えた。我が子の名前って、毎日、何度も呼ぶものだから、親が名付ける上で響きはとても大切な要素だと思う。だから今回、時間をかけて塗り分けた。

その結果が、下の表だ。塗り分けの色が多くて見にくいが、母音ごとに「ア=赤色イ=青色ウ=黄色エ=灰色オ=緑色、ン=無色」となっている。

最近は同じ漢字でも異なる読み方をする名前が多いので、ネットに「人名 〇〇 読み方」と打ち込んで、多く使われていそうな読み方を採用した。どうにも判断がつかないものは無色としている。

男の子、ウ→イ→ア→オ

上の表で分かる通り、男の子はおおむね「ウ→イ→ア→オ」と流れている。

もともとは「みのる」「しげる」「つとむ」など〝ウ〟が多かったが、高度経済成長期に入った辺りで「たかし」「ひろし」「こういち」など〝イ〟が勢いを増す。

しかし、昭和の末期ぐらいから「てつや」「けんた」など〝ア〟が増え、21世紀に入ってからは「はると」「ゆうと」「かいと」など〝オ〟が優勢になっている。〝エ〟は「だいすけ」が多くなった昭和の後半に一定のボリュームがあったが、それ以外はあまり上位で見ない。

女の子、オ→イ→ア

一方、女の子は前述の通り「子」から「美」へ移り変わる大きな波があったので、〝オ〟→〝イ〟の変遷はうなずけるところだろう。

平成の中ごろは〝アイウエオ〟が入り混じっていた。そして、徐々に〝ア〟が優勢になる。これは前述のように「〇菜」「陽葵(ひなた)」といった植物系で人気の名前が現れたほか、「〇愛」も複数あることによる。

男女とも〝ン〟が増加中

その上で特筆すべきは「蓮」「凛」「杏」など、男女とも〝ン〟で終わる名前が増加していること。一昔前なら男の子の「駿」「健」ぐらいしか聞かなかったと思うが、下表の通り、21世紀に入るころから〝ン〟が上位に顔を出すようになってきた。

これをどう結論付けようか。こじつけに近いと自覚した上で言う。

21世紀はインターネットが急速に普及した時代で、人々の生活は以前と様変わりした。

個人的に、ネットはオープンでもクローズドでもあると思う。匿名でさまざまなことができるが、裏で個人データは握られていて、SNSも実名・匿名のさまざまな種類がある。

ボタン1つで世界中から商品を自宅へ取り寄せられるシンプルさの裏に、とても複雑だけど効率的な仕組みがある。見た目は単純で自由だけど、実は複雑で不自由でもある世界。一瞬で世界の裏側と繋がれるのに、1種類のウイルスに生活を強く制限される日々。

〝ア〟も〝オ〟も口を開いて発音することからオープンな印象が強く、逆に〝ン〟は口を閉じて発音する。オープンでもクローズドでもあるこの現代の両面性を感じて生きる親たちが、それらの音を持つ名前を支持することに、筆者は何となくだけど納得して、調査を終えた。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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