富山地方鉄道、富山市内電車にICOCA・Suicaなどの全国交通系ICカード「10カード」を導入

富山地方鉄道、富山市内電車にICOCA・Suicaなどの全国交通系ICカード「10カード」を導入

2021年9月11日

富山地方鉄道(富山市)は2021年10月10日、同市内を走る路面電車「市内電車」で、大手交通事業者が発行する全国交通系ICカードを使えるようにする。全国交通系ICカードを使えるようにするのは、北陸三県の私鉄で初めてである。

(出典・富山地方鉄道ホームページ)

市内電車で使えるICカードは現在、富山地鉄が発行する「えこまいか」「パスカ」のみだが、10月10日以降はJR西日本のICOCA(イコカ)、JR東日本の「Suica」など、既に相互利用できる10種類のICカード「10カード」に対応する。降り口では従来のカードリーダーの近くに新たに10カード用のカードリーダーを設置する。

ただ、今回はあくまで10カードのシステムを市内電車に持ち込むだけなので、えこまいかやパスカが例えば東京や大阪で使えるようになるわけではない点に注意が必要となる。

 

そもそも、なぜ互換性がないのか(怒)

わざわざこうした装置を導入する背景には、大都市圏から訪れた観光客やビジネス客の、利便性を上げる、というよりも、無用の混乱を避ける狙いがあるようだ。

10カードは便利だ。東京で過ごした大学時代、JR線や東京メトロ線、東急線など、異なる鉄道会社をまたいで乗り継ぐのに、たった1枚のカードを持っていればいいことに驚いた。そして、それはすぐに習慣化し、電車に乗る時は、それが何線であろうが、まったく気にならなくなった。だって、10カードにチャージ(事前入金)さえしておけば、困ることはないのだから。

北陸では富山地鉄の他に北陸鉄道(金沢市)も独自のICカード「アイカ」を出しており、こちらも10カードと互換性がない。

そのため、例えば金沢駅から北鉄のバスに乗ると、念願の古都・金沢に到着して目の前のバスに飛び乗り、乗車口で一生懸命にスイカやイコカ、パスモをカードリーダーにかざしたのに、読み取られずに首をかしげる都会人を見掛ける。それを見た運転手は「またか」とばかりに苛立った声で「お客さん、それ使えませんよ!」と注意する。そんな光景を異常なぐらい頻繁に目撃する。

金沢に着いて5分。第一印象は「ガラパゴスなバスのカードシステム」と「不愛想でキレ気味の運転手」である。良い旅になりそうだ。

10カードを使えるようにするには、カードリーダーの購入代やシステム開発費、工事費などが必要になる。車両を多く持つ交通事業者ほど、負担は大きく、二の足を踏むのも分からなくない。

確かに、北鉄としては車内外で互換性がない旨の告知をしている。ただ、それをもって「自分たちはちゃんと知らせているのに聞いていない奴が悪い」みたいな態度はどうだろう。

ICカード導入、実は北鉄が先行

そもそも、北鉄や富山地鉄が「我々は今から独自のICカードを引っ提げ、全国の電子決済業界を席捲してやる!」という気概を持っているのならまだしも、これだけ全国の大手事業者が相互利用の取り組みを進める中、自分たちもそれに乗らないのは、利用者のことを全く考えていないと言われても仕方がないのではないか。

もっとも、実は北鉄のアイカはJR西のイコカよりも導入時期が早かった。そういう意味では「なぜ、先行していた我々が費用を負担してまで後発のカードに合わせなければならんのだ」というような憤慨があったとしても、心情的には頷ける。

だが、しかし。

今、規模において10カードと地方独自のカードは比べるまでもない。もちろん、地域限定のカード自体はオリジナルの割引制度があるなど、地元住民にとって利便性の高いカードである面は否定しない。

だが、前述の通り、カードの相互利用ができない状況は遠来の人に金沢到着の数分後に排他的なイメージを持たせかねない。投資をケチるのはいいが、それが長期的には観光産業に片足を突っ込んでいる自分たちの首を絞めてしまうのではないか、と半ば他人事ながら危惧している。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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