2022年12月5日、山崎製パンが内容量・価格の改定に関するプレスリリースを出した。リリースは登場する商品が2種類あったため、マスコミによって報道の方向性が異なった。この違いが面白かったし、学びもあったので紹介する。
山崎製パンのリリースはコチラ。
山崎製パンが書いた順番でリリースを要約すると、以下の通り。
2023年1月出荷分から「薄皮シリーズ」全7品の内容量を変える。2月出荷分からは「ランチパック」3品(ピーナッツ、たまご、ツナマヨネーズ)の価格も改定する。「薄皮」は5個入りを4個入りにし、ランチパックは平均4.7%値上げする。
目次
A社の見出し ランチパック3品を再値上げ/23年2月から
上記2商品のうち、テレビCMで大々的に宣伝されている商品はランチパックだろう。
それが「再値上げされる」のは、確かに大きなニュースだ。何でも値上げの時代、消費者は価格への感度が高いとみられる。A社の見出し・記事だけを見る限り違和感はない。
では、次にB社の見出し。
B社 「薄皮シリーズ」内容量5→4個に/ランチパックも値上げ
これこそ、今回のニュースの「核心」である。
「ニュース」自体への関心は?
おそらく、今の消費者は「値上げ」への関心こそ高いものの、それは「値上げニュース」への関心とは似て非なるもの。毎日のように値上げニュースを聞かされると「またか」「もういいよ」と聞き流して(読み流して)反応しなくなる。
もともと小売価格は同じ店でも日によって変わる。仮にメーカー側が4%値上げしても小売店が一部を吸収する場合もあるため、価格改定のインパクトがリアルには伝わりにくい。
分かりやすいインパクト
一方で「1袋5個」が「1袋4個」になる衝撃は、具体的に想像できる。
例えば5人家族ならこれまで、1袋を買えば1人1個ずつ食べられた。それなのに、年明けからは2袋を買うか、1袋を分け合わなければ、全員が食べられない。
B社の報道を見た消費者は、ニュースを「自分事」として受け取り、自身の購買行動・意識を変えざるを得ない。「消費者に有用な情報を伝える」という報道の使命を考えると、B社のスタンスが優れている。
でも、ランチパックの方が有名でしょ?
とは言え「マス」コミなんだから、知名度のある方を取り上げるべきだ。露出機会の多いランチパックの方が消費者から知られているとも考えられる。
でも、これは思い込みだ。22年12月8日午前0時ごろ、Googleに「山崎製パン ランチパック」「山崎製パン 薄皮シリーズ」と入力し、それぞれのヒット件数を比べた。結果はランチパック152万件、薄皮393万件。圧倒的な大差で薄皮が勝った。
マスコミにありがちな「やっつけ仕事」
筆者の経験から、A社の判断の背景は推察できなくもない。
ただ数字を並べる無責任な記事
よく見るのが、数字を大げさに書き立てる割に、解釈は読者に委ねる無責任な報道だ。最近「新ブランドに認定されたカニが●日時点で●匹だった」と記事化されていた。書いた人は得意なのかも知れないが、これも「●匹」が多いか少ないか、読者には理解できない。
本来、数字の「意味」を示すのが記者の役割だ。数字を並べるだけなら、文章よりも表やグラフが分かりやすい。カニなら、当事者の事前予想、前年もブランドがあったと仮定した数字と比べれば、数字が持つ意味を示せたはず。
取材先の発言やデータを書き写すだけなら、それは記者ではなく書記係である。
数字は目的じゃなくてツール
マスコミでは「紙面・番組に穴を開けない」という至上命令(言い訳)のもと、上記のような「やっつけ仕事」が散見される。でも、数字を盛り込めば自動で具体的な原稿になるわけではない。具体的な何かを示すため、数字の力を借りて原稿を書くのが正解だろう。
ビジネスシーンでも、たまに数字だらけの資料を見る。しかし、大切なのはデータの紹介じゃない。そのデータから、どんな考察と結論を得られたかを分かりやすく伝えることのはず。
今回の山崎製パンのプレスリリースを見て「えっ、5人家族は薄皮2袋も買わんなんの?財布まで薄くなるやん!」と消費者目線で考えるか、淡々と「有名っぽい」商品を作業的に前面に出して文字を打ち込むだけか。
筆者なら、前者の感覚を持つ人と仕事がしたいなあ。