「老後2000万円問題」あたりから、若者を中心に「蓄財」への意識が高まった。
巷には「ほったらかし」「寝てるだけ」とうたっている書籍も多いが、この先の数十年間の資産運用を考える時こそ、安易にブームに乗らず、長く読み継がれてきた名著を参考にしたい。
そこで紹介したいのが、表題にある「となりの億万長者」だ。米国の億万長者の金銭に関する意識や行動をまとめた本で、日本では1997年に翻訳されて発売された。
内容を簡単に要約すると、以下の通りになる。
- 倹約こそ資産形成の第一歩
- 仕事や投資、消費のバランスをとる
- 大事なのは自分をコントロールする意思
こうして見ると、あまりに当たり前のことが多いように思える。しかし、よく考えてみてほしい。筆者も含め、当たり前のことを愚直に実践しすぎるほど難しいことはない。
例えば、自動販売機で買う160円のジュースはドラッグストアやスーパーで買えば80円だ。何なら水筒にお茶を入れて自宅を出れば、10~20円ぐらいか。
こうした感覚こそが「蓄財優等生」への正道だという。本書が紹介する蓄財の手法は「2年で〇倍!」みたいな手法と比べると非常に地味だが、誰でも再現でき、ゆっくりと確実に億万長者に近づける道である。
【要約】資産はライフスタイルから生まれる
資産というのは、勤勉、我慢、計画性などのライフスタイルから形成される。
重要なのは「7つの法則」だ。ここでは特に重要とみられる3つを挙げる。
- 収入よりも遥かに低い支出で暮らす
- 時間、エネルギー、金を効率的に配分する
- 世間体を重視しない
どうだろう?①は収入を増やすことはもちろん、支出を抑制することの大切さを説いている。③にも通じることではあるが、人は収入や肩書きが上がると、世間的にそれに見合ったと思われる生活を送りがちになる。
つまり、収入が上がっても、支出との差額が大して大きくならない。
本書では(米国での調査で)意外に蓄財ができていない職業として、医師や弁護士などを挙げている。これらの職業は「社会的ステータス」が高く、生活が派手になりやすい。下手をすると、収入以上の暮らしをすることになりかねない。
こうした落とし穴を避けるために心掛けるべきなのがライフスタイルだという。勤勉さや自分の欲望をコントロールする力が必要なのだ。では、具体的に何をどう心掛けるべきかを見てみよう。
倹約こそ「最高の守備」
本書に印象的なエピソードが掲載されている。米国でトップ2%に入る億万長者にインタビューした際、これまで買った最も高いスーツの金額として「399ドル」と回答したという話だ。物価も考慮すると、日本で言えば2万9900円あたりのスーツだろうか。
どれだけ高いスーツも靴も、消耗品で、価値は買った瞬間から下がり始める。これは車や住宅も同じで、億万長者には燃費の良い標準的な車、性能の良い標準的な住宅に住んでいるケースが多いという。
彼らの考える「金持ち」というのは、金をたくさん浪費できることでも、高価な物を買って見せびらかすことでもない。経済的に自由になることであり、そうして家族を支えることだ。そのために、価値が下がる物ではなく、将来的に価値の上昇が見込まれる資産(株式など)に金を振り向ける。
その原資を得るために、節約に余念がない。金の使い方に気を付けることが最高の守備になる。
蓄財優等生は、まず、収入から貯蓄や投資に充てる金額を切り分け、予算を建てて出費をコントロールする。仕事で得た知識も総動員して投資すべき分野や銘柄を研究する。そしてじわじわと資産を増やす。
この点、蓄財劣等生は「世間から認められるため」に金を使う。高級スーツと高級時計を身に着けて高級車に乗り「自分は成功している」とアピールする。
ちりも積もれば山となる。両者がこの生活スタイルを長年にわたって続けると、手元に残る金額は大きな差となって現れる。
㊤のまとめ・感想 「世間」なんて幻想
筆者は平均よりも給料の高い会社に勤めていた。そのためか「物」に大金を払う同僚が多く、そろって自らの財力を誇示するように、高級時計やブランド住宅、輸入車を購入していた。典型的な蓄財劣等生の集まりである。
もちろん、倹約ばかりの人生は味気ないので、趣味には多くの金額を支出すべき。ただ、見栄のための浪費は満足度も低く、費用対効果は低い。なぜなら自分が価値に納得できていないからだ。
例えば600万円の輸入車を買えば、所有欲は相応にあるし、何人かの知人には「さすが〇〇だね」「いいなあ」と言われる。
でも、それだけだ。
車が趣味の人を除けば、150万円の国産中古車の4倍の価値があると自信を持って言える人は少ないのではないか。
極論すれば「世間」というのは幻想で、その場その場の空気の集合に過ぎない。
「空気を読む」のが日本人の良い点でもあり悪い点でもあるだろうが、日常的な立ち回り方ならともかく、その空気に大事な資産を払う必要まではなく、もっと大切な振り分け先がある。本書は、そうした「当たり前」に気付かせてくれる。
㊦に続く