2023年11月8日、少なくとも、北陸で経済記者をやって10年の筆者は(たぶん)初めて目にする「珍事」が起こった。
日本経済新聞が中越パルプ工業(高岡市)の業績について従来予想から上振れると報道したところ、中越パルプがその内容を事実上認めた。その認めたこととの因果関係は詳しく追えないが、結果として、同日の中越パルプの株価は高騰した。
半年間で1年分に近い利益?
記事には2023年9月中間期の中越パルプの連結売上高が530億円程度、連結営業利益が30億円程度になると書かれていた。中越パルプが2023年6月29日に公表した従来予想と比べると、以下の通りとなる。
売上高 | 営業利益 | |
---|---|---|
従来の予想 | 530億円 | 17億円 |
今回の報道 | 530億円程度 | 30億円程度 |
報道に基づくと、売上高はだいたい従来予想通りだが、営業利益は従来予想の2倍近くに膨らむ可能性があるという。
ちなみに、これは半年間の利益に関する話。中越パルプ工業はもともと、年間の予想営業利益を「32億円」と公表していたので、半年間の営業利益が本当に30億円レベルなら、1年分に近い利益を得ていることになる。
通例は「当社が発表してない」「精査中」
こういった報道があった場合、上場企業は一般的に「当社が発表したものではない」「現在精査しており、何か判明したら速やかに公表する」という内容の発表文を出す。
中越パルプの発表文も両方の文言を含んでいたのだが、その間に「業績については、概ね報道された内容に近い数字を見込んでおりますが」という一節があった。
これは業績予想に関するケースであまり見かけないと思う(M&Aなどでは「検討しているのは事実」「明日の取締役会に付議する予定」と認めることがある)。
もっとも、日経新聞に記事が出た時点で投資家は「確度が高い」と判断したもよう。この発表文が出たのは9時20分だが、株価は9時の寄り付き時から高騰し、その後もジワジワと値を上げた。
終値は10%高、上昇率は東証プライムで4位
2023年11月8日の中越パルプの株価を見てみる。前日終値は1,334円で、この日の始値は90円(6.74%)高い1,424円となった。
その後、昼過ぎに高値1,515円を付けた。前日終値から見ると、181円(13.56%)高い水準である。14時前からは落ち着き、最終的に141円(10.57%)高い1,475円で引けた。
この日の日本市場は全体的に弱く、多くの銘柄がマイナスだった。利益の上振れを認めたことは、株価を少なからず下支えする要因にはなっただろう、と想像している。終値を前日からの上昇率で比較したランキングでは、東証プライム市場で4位に入った。
決算は9日14時半に発表
中越パルプは2023年11月9日14時半に9月中間期の決算を公表する。株式市場は基本的に15時まで取引があるので、市場が開いている最中だ。
株価は既に業績の上振れ分を織り込んでいるとみられる。それだけに、実際に決算が出てから大引けまでの30分間にどんな値動きをするのか、個人的に注目している。