石川県知事選、投開票を地上波でやっていない!/選挙で感じた各メディアの差

石川県知事選、投開票を地上波でやっていない!/選挙で感じた各メディアの差

2022年3月14日

3月13日に投開票された石川県知事選挙。今回は馳、山野、山田3氏による三つ巴で、ちょっとした天候の変化で結果が変わり得るほど微妙な情勢だった。

そうなると、投票終了の20時もしくは開票が終わった市町村が出始める21時ごろから、地元テレビ局が知事選特集番組をやるだろう。酒もつまみも準備万端だ……アレ?全然やってないじゃないか……。

そこでTwitterを覗くと、たくさんのスクリーンショットが流れている。調べると、石川県内に本社を置く民間放送4社は、いずれもYouTubeでライブ放送をしていた。NHKは1、2時間おきに短い速報番組を放送していた。

YouTube番組に大学生や利恵ママ

民放のうち、北陸放送、テレビ金沢、北陸朝日放送は基本的に各陣営事務所の様子を定点映像で流し、たまにスタジオでの会話に切り替わる建て付け。

出色だったのは石川テレビ。基本的にスタジオでの会話や選挙戦を振り返る映像を流し、陣営事務所の様子は「つなぎ」のように使う程度。他の3局と逆の構成だった。

ただ、普通に考えれば、今回は早々に結果が出ない。そこで、多角的に選挙を見て、長い放送時間を充実させるためスタジオに登場したのが、選挙をSNSで発信した大学生、金沢や銀座でクラブを経営する「利恵ママ」だった。

大学生はともかく、利恵ママという意表を突くキャスティングに、YouTubeのコメントやTwitter上では礼賛の声が上がっていた。

県外でも視聴可/あらためてネットの力を実感

印象的だったのは、石川県外に住む人が、YouTubeの番組を頼りに石川県知事選関連のリアルタイムのツイートを行っていることだった

言われてみれば当然だが、地方選挙をローカル局が特別番組で放送しても、県外では見られない。住民票さえ石川県にあれば、県外にいても郵送投票ができるのに、当日は蚊帳の外なのである。

ところが、ネットは県境や国境を越える。YouTubeの番組は、進学や人事異動で故郷を離れた石川県民はもちろん、住民票はないが関心を持っている県外在住者には、大きな助けだっただろう。

双方向性を感じる場/時間制限ないメリットも

そんなYouTubeを見ていて気付いたことがある。

画面の脇では視聴者のコメントが流れ、出演者も地上波と比べてくだけた物言いの場面がある。やたら体裁が整えられ、一方的に流される(押し付けられる?)メディアと比べると、視聴者も当事者として参加しているような気になる。

さらに、YouTubeは終了時刻が決まっておらず時間制限がないので、予想外に早く決着がついても、逆に遅くまでもつれても確実に放送できるメリットも大きい。

もちろん、NHKが当確を出せば、他の局が放送中の番組を切り上げて勝った陣営に映像を切り替えるので、どの局も万歳の瞬間を逃さない。

そういう意味で、どの局も内々では抜かりなく選挙対応を進めている。しかし、それと並行して有権者や関心を寄せる県外在住者に、少しでも多くの情報をリアルタイムに届けようと奮闘した石川テレビの心意気をたたえたい。

「28年ぶりの知事交代」というのは、めったにないイベントで、ここで実行したことがすぐに他の何かに応用できるわけではない。だが、そんな一大事に「いつものこと+α」ぐらいしかできない頭の堅いメディアと、柔軟に新たな試みを繰り出すメディアの姿勢は、長期的な企業価値に現れてくるのではないだろうか。

追記・求められる仕事、それ以上の仕事(3/15追加)

ありがたいことに、この記事がたくさんの反響を呼んだ。その中に「マスコミの役割は選挙への機運の醸成であり、当日は淡々と情報を流せばいい」というコメントがあったので、これに対して思うところを追記する。

もちろん、マスコミの役割が選挙取材を通じた情報提供、投票への機運の醸成にあることは否定しない。というか、すごく大切な機能だと思う。当日は基本的に各事務所の映像を流しておき、ときどき候補者の得票数を放送する程度でも、構わないと言えば構わない。

でも、それは「最低限求められる仕事」だ。

例えば、国政選挙なら全国で数百人が立候補する。20時に開票作業が始まると、大物議員が敗れたり、タレント議員が当選したりと、たくさんの話題が供給される。それぞれの当落の瞬間の映像を流し、合間にスタジオで解説を挟めば、数時間の選挙番組は成り立つ。

この点、今回の選挙は石川県知事選、金沢市長選、金沢市議補選、輪島市長選が同日だったが、知事選を除けば割と早く当確が出るのは明らかだった。20時に出る最初の当確と、日付をまたぐ可能性もある知事選。この「4時間」を、どう扱うか

事務所での取材は「よそ者感」が強く、しんどい

筆者も新聞社にいたので、いつ当確が出るか分からない開票作業を仕事として延々と待つ「しんどさ」は理解している。

各事務所は本人や支援者による熱気や一体感で満ち、一方で何の思い入れもない取材者は浮いていて居心地が悪い。「最低限求められる仕事」をやりきるだけでも大変なのだ。「どうせ夜も遅いし、前例踏襲か他社と同程度で文句は言われまい」と考えるのは普通だと思う。

だから、他のテレビ局や新聞社が怠惰だったと言うつもりはない。

ただ、そんな中、限られた人数で空白の4時間を埋めようと奮闘していた局は、賞賛に値するんじゃない?というだけだ。ほとんどの県民は中西知事か谷本知事しか知らない。28年ぶりの新知事を決める選挙が超接戦と伝えられ、3月13日の夜、多くの県民は今か今かと固唾をのんで結果を待っていた。その長い長い4時間に寄り添ってくれたのだから。

最後に、どうやって意思決定が行われたか分からないが、知事選の結果が分かるまで、ぶっ通しでコンテンツを提供し続けると決め、内容を補足するため利恵ママや大学生など異色のキャスティングに踏み切ったテレビ局の柔軟さ、思い切りや風通しの良さに敬意を表したい。筆者は応援していた候補が負けて悔しいけど、どこかに満足感があるのは、一つは、あなたたちのおかげです。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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