国土交通省が2022年3月22日に発表した公示地価(1月1日時点)は、北陸3県で新型コロナウイルスの影響による下げの一服感がみられたものの、コロナ禍前の水準には届かなかった。今回は30回近くにわたって地方紙に地価の記事を書いてきた筆者が、北陸分のポイントを紹介する。
コロナ禍前への回復度は「富山>福井>石川」
地価とは主に前年比でどれだけ上がったか、下がったかで表現する。だから、大きく下げた翌年は反動で上昇したり、下落幅が縮小したりしやすく、前年比の変動率が必ずしも実態を反映するわけではない。
例えば、2022年の公示地価を前年比で見れば、石川は「2年ぶり上昇」、富山、福井は「下落率が改善」で間違いない。石川のマスコミは勝ち誇ったように「上昇」をクローズアップするが、22年の地価をコロナ禍入り直前の20年と比べると、見え方は違ってくる。
22年、20年の各県の全用途平均価格を比較してみよう。
22年 | 20年 | 20年比変動率 | |
富山 | 49,000円 | 49,200円 | ▲0.4% |
石川 | 77,600円 | 78,700円 | ▲1.3% |
福井 | 51,200円 | 51,500円 | ▲0.5% |
筆者は石川県民なので「石川は大したことない」と言いたくはない。ただ、事実としてコロナ前との乖離(かいり)は石川が最も大きく、富山、福井が堅調であることが分かる。
例えば、北陸の地価上昇を牽引(けんいん)してきた金沢市。住宅地は2.0%プラス(前年は1.0%プラス)、商業地は0.1%マイナス(同1.7%マイナス)、全用途は1.3%プラス(同0.1%プラス)で、前年から見ると回復が鮮明だ。
しかし、2%上昇した住宅地もコロナ前と比べれば回復は鈍い。22年の上昇地点は74.6%に当たる50地点だったが、20年調査では91.0%に当たる61地点が上昇していたのだ。
それでは、各県の勢いを象徴する最高価格地点はどうか。
1㎡当たりの価格 | 前年比の変動率 | |
富山(富山駅前) | 53万4,000円 | 1.5% |
石川(金沢駅前) | 98万5,000円 | ▲3.4% |
福井(福井駅前) | 37万4,000円 | 0.8% |
石川だけが下落した。もともと北陸の中で観光客が多かった石川県がコロナ禍で負ったダメージの大きさが見てとれる。
このように、北陸3県の公示地価を読み解くと「石川の回復ぶりが明らかになった」のではなく「石川の傷の深さが明らかになった」ということになるだろう。
石川、富山とも下落率1位は飲食街
22年の公示地価では、21年に引き続き、飲食街の下落が目立った。
石川県内では金沢市片町2丁目(スクランブル交差点近く)が前年から7.2%のマイナスとなり、下落率で県内1位。商業施設「片町きらら」近くの片町2丁目は4.5%下落で県内4位だった。富山県内では富山市桜木町が5.1%のマイナスとなり、下落率で県内1位となった。
筆者が見るところ、コロナ禍で賃料が下落基調になるのを見て出店する例もあるが、退店する例の方が多い状況は変わらない。これは「まん延防止措置」の解除云々でどうにかなるものではなく、いつか「マスクなしで外出しても白い目で見られない」というような状況にならないと、本格的に反転しないとみている。
コロナ関連では富山県で黒部市宇奈月温泉が3.3%下落した。前年は変動率が県内ワースト1位で、今年は富山市桜木町と入れ替わって3位となったが、飲食店同様に厳しさが続く。
新商業施設の周辺は上昇著しく
上昇が著しかったのは、当たり前だが、新たな複合商業施設の周辺。
石川県内で言えば住宅地の上昇率1位が金沢市西泉6丁目(7.6%プラス)、商業地の1位が金沢市泉本町6丁目(4.4%プラス)で、いずれもボウリング場「ジャンボボール」跡地にできた「コレクトパーク金沢」の近くであることが象徴的だった。
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22年の公示地価はコロナ禍で大きなダメージを受けた前年と比べると、状況に落ち着きが出たものの、コロナ前の水準には到底及んでいないことも示していた。
ただ、足元ではコロナの感染拡大とは別に社会経済活動が活発化してきている。長いスパンでは、23年の調査で各県の平均価格がコロナ前を超えられるかどうか、という辺りが注目されそうだ。