尾を引く行列の撮影禁止問題/2022年の金沢百万石まつり/栗山千明さん謝罪/食い違う説明/共同通信も続報

尾を引く行列の撮影禁止問題/2022年の金沢百万石まつり/栗山千明さん謝罪/食い違う説明/共同通信も続報

2022年6月14日

金沢百万石まつりのメイン行事「百万石行列」で、2022年に実行委員会が前田利家役の竹中直人さん、お松役の栗山千明さんを撮影禁止とした措置が波紋を広げ続けている。

関係者の説明が食い違い、ウワサが錯綜する中、栗山さんが謝罪する事態に発展した。行列から10日ほどを経てなお、全国にニュースを配信する「共同通信社」が続報を報道しており、3年ぶりに催された祭りは思わぬ形で全国からの注目を集めている。

以下、時系列に沿って、今回の問題の推移を整理したい。

6月4日 プラカード「撮影はご遠慮ください」

行列は2022年6月4日に行われ、筆者も現場に居合わせた。

地元の子どもや自衛隊、警察、ミス百万石のパレード、加賀鳶の演技に続き、いよいよ武者姿の一行が現れる。ただ、例年と違ったのは、お松の方、前田利家を取り囲むように「撮影はご遠慮ください」のプラカードを持った係員たちが歩き回っていた点だ。

筆者が撮った百万石行列の一幕。芸能人の2人以外は自由に撮影してよかった

決まりなら従わざるを得ない。ただ、それを守らない観衆がいて、その人に白い目を向けて文句を言う観衆がいて、撮影禁止を呼び掛けるため叫ぶ係員がいる…。和やかムードも風情もあったものではなく、険悪な雰囲気さえ漂った。

筆者もカメラを下ろしたものの「芸能人がギャラをもらって仕事として仮装し、数万人が待つ公道に出てきて『撮影禁止』とはどういう了見か」と疑問だった

8日 中日新聞「芸能事務所からの要請なし」

6月8日の北陸中日新聞の記事は「撮影禁止」が全国的にも異例だと紹介し、疑問を投げ掛ける内容だった。

記事によると、芸能人の2人のみを撮影禁止とする措置は、開幕6日前にホームページで発表された。禁止する趣旨は「肖像権を守るため」とされていたのだが、竹中さん、栗山さんそれぞれの事務所との出演契約には肖像権に関する内容がなく、両氏が所属する事務所の要望があったわけではないらしい。

つまり、実行委員会(金沢市と金沢商工会議所が中心で、北國新聞社などが参画)が5月下旬に、独自に判断して実行したということだ。

10日 村山金沢市長「事前の取り決め必要」

MROの報道によると、村山卓金沢市長は10日、一連の騒動について「実行委員会が契約する相手方の事務所あるいは、仲介する事務所との間でしっかりと事前の取り決めをする必要がある。これを契機にしっかりと検証して次につなげたい」と述べたらしい

残念ながら、いま語るべきは来年の話や原則論ではない。どんな議論を経て、直前期に、誰が何のために極めて珍しい規制を決めたのかを説明し、鎮静化を図ることが最優先だと思う。

さもないと、全国から「意味不明な理屈で変なことして話題になっても、誰も責任とらない。何でも『なあなあ』にできる田舎は良いなあ」と見られても仕方ない。

12日 栗山さん「誠に申し訳ございません」

今回の撮影規制は、まつり開幕前から話題を呼び、Twitter上には疑問・非難の声があった。そのTwitterに、12日、お松の方役を務めた栗山さんが謝罪のメッセージを投稿する。

(和傘に関する記述は、行列の道中、和傘の下に黒い日傘をさすという不自然な格好をしたことに対して非難する声に応じたものとみられる。)

筆者はこのツイートを読んで「鎮静化するために自ら謝りたい」という気概を感じた半面、表現内容が曖昧で、日傘の箇所以外は具体的に何を謝っているのか理解できなかった。

その謎が解けるのは翌13日である。

13日 共同通信「竹中さん事務所は禁止求めず」

 同 週刊女性「栗山さん事務所が禁止求めた」

週刊女性が13日にアップした記事によると、栗山さんの所属事務所は一般人による撮影の禁止を事前に求め、それが承諾されたから出演を決めたと説明した。ということは、栗山さんによる12日の謝罪コメントは自身(の所属事務所)が撮影禁止を持ち掛け、それが波紋を呼ぶ原因になったから謝った、ということだ。

しかし、北陸中日新聞の記事は、いずれの芸能事務所も撮影禁止を持ち掛けていないという内容だったはず。どちらが正しいんだ…。

もっとも、栗山さんの所属事務所は実行委員会と直接話さず、代理店などを通じていたそう。週刊女性の記事中で金沢市は「肖像権に関するトラブルを考慮したうえで、関係者などと調整した結果、判断した」と説明。もはや、誰と誰がどこまで話し、きちんと合意形成がなされたのか、分からないことだらけである。

一方、共同通信が13日に配信した記事によると、竹中さんの所属事務所は実行委員会に対して撮影の禁止を求めたことはなく、撮影した写真をSNSなどにアップしても問題ないとの見解を示したという

「イベント」だからこそ

共同通信の記事を読み、筆者は脱力した。

筆者は芸能人を特別視していないので、竹中さんや栗山さんの写真を撮れなかったことは、どうでもよい。

ただ、両氏が目の前を通った時、周囲から「カメラ禁止じゃないん?」「あの人、めっちゃ撮っとるやん」「スタッフ、注意しろよ!」という声が聞こえ、せっかくの祭り気分が台無しになった。それなのに、まさか当人(が所属する事務所)が「撮影OK」「SNS歓迎」とは………。

百万石まつりは今回が第71回だが、各地に根付く祭りから見れば歴史は浅く「後付けの単なるイベント」とも言える。しかし、大藩としての加賀藩は謀反の疑いをかけられぬよう、あえて金沢で大きな祭りをしなかったらしいから、ある意味では「祭りに歴史がないことが歴史」。その延長上に、ようやく今の百万石まつりが成り立っている

さりとて、イベントはイベント。「500年前、この地に流行した疫病の退散を願った踊り」のようなルーツがあれば、是が非でも当地で継承されるだろうが、イベントはうまくいかなくなれば、途端に「やめてしまおう」の声が強まりかねない。

だからこそ、まずは今回の振り返りをしっかりやらないと、「次」なんてないかもしれないのだ。

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国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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