北陸3県で営業するドラッグストアの店舗数が700店を突破し、市場規模(販売額)は月300億円台に拡大している。いずれも過去5年で1.5倍になっており、力強く成長しているように見えるが、足元では勢いに陰りも見え隠れする。
今回は経済産業省が発表している商業動態統計の数字から、北陸のドラッグストア業界の推移を見てみる。
右肩上がりの店舗数
2019年6月から2024年6月までの5年間を対象に、北陸3県の店舗数をまとめてみた。筆者の都合で3カ月おき(3の倍数の月)の集計になった点をご容赦いただきたい。
閉店するケースもあるはずだが、その影響を旺盛な新規出店意欲が打ち消し、基本的に右肩上がりで増えている。500店を突破したのは2020年3月で、600店を超えたのは2021年6月。700店台に入ったのは2023年12月となっている。
月間販売額は波打ちながら増加
同じ期間を対象に、今度は月間の販売額をまとめてみる。単位は百万円。
基本的に右肩上がりであるところは店舗数と共通しており、販売額は2023年12月に月の販売額が節目の300億円を超えた。
左軸の数字を編集し、さらに点線で近似曲線を引いてみると、以下のようになる。
余談だが、近似曲線よりも上に飛び出している月を見ると、12月が多いことに気付く。北陸の冬は雪かき用のスコップやホッカイロなどが必要になるので、そうした影響だろうか。
店舗数と販売額の増加ペースは?
いずれも右肩上がりの店舗数と販売額だが、どちらの方がより増加しているのか。それを把握するため、2019年6月を100とした場合に、各集計時点がどんな水準にあるかをグラフ化した。
ここ5年に限って見ると、コロナ禍という特殊環境下において店舗数の増加に販売額が追いついていない状況だった。しかし、ここにきて同じような水準になっており、今では共に5年前の1.5倍になっている。
※ちなみに、少し前に作成したドラッグストアの勢力図に関する記事は以下のリンクから。
店舗数の増加ペースは鈍化か
さて、店舗数の増加を1年スパンで見ると、4、5年前は年70店ほど増えていたのだが、直近では30店ほどに落ち着いている。これだけ見ると、いかにも店舗数の増加ペースが鈍化しているように見えるが、どれぐらいの期間ごとに切り取るかによって結果は変わりかねない。
そこで、店舗数の推移に関するグラフの左軸を0店スタートではなく400店スタートに編集し、移動平均線を付してみた。
最近になればなるほど、移動平均線の傾きが緩やかになっているようだ。たしかに肌感覚で言っても、最近はドラッグストアの建設現場を見る機会が減ってきたかもしれない(それでも他の業態から見れば圧倒的に多いけど…)。
ところで、店舗数の推移を棒グラフに、1店舗当たりの販売額を折れ線グラフにまとめると、以下のようになる。
1店舗当たり月4,000万円前後の販売額で横ばい傾向にある。これだけ店舗数や市場規模が増加・拡大している中、1店舗当たりの販売額がほとんど横ばいなのは面白い。店舗数と市場規模は均衡を保っているように見える。
しかし、その傾向はいつまで続くだろうか。
近付く「勝負どころ」
基本的に小売業は新しい店ほど売り上げが多くなる。これまでは新店ラッシュの中で市場規模が順調に拡大してきたが、出店ペースが鈍れば古い店の比率が高まり、1店舗当たりの販売額は落ちる可能性がある。
もちろん、そうならないようにドラッグストア各社は既存店を改修したり、生鮮品やPB商品を拡充したり、物流網を見直したりして売り上げ・利益を維持しようとする。だから「出店ペースが鈍る=各社の業績が下がる」とは言い切れない。
いずれにせよ、まるで陣取り合戦のように押せ押せの出店競争を演じてきたドラッグストア業界は、店舗数が頭打ちになってからが本当の勝負どころになるのだろう。
どんな業界でも、産業自体が急拡大しているうちは、どのプレイヤーも多かれ少なかれ恩恵を受けて大きくなれるもの。しかし、いったん市場の成長が止まれば「強い店」「弱い店」が選り分けられ、消費者を固定客として育成できていない店の淘汰が進む。
統計を眺める限り、ドラッグストア業界の勝負どころは少しずつ近付いているように映る。