お金のために働くな 「金持ち父さん 貧乏父さん」/ロバート・キヨサキ(筑摩書房)㊤

2021年9月22日

20年越しの後悔

本書が日本で発売されたのは2000年。世間はミレニアムだと浮かれ、筆者は中学生だった。

当時は電車とバスで片道1時間かけて中学校へ通っており、通学中は専ら読書に勤しんでいた。

2021年現在で販売中の本書は、黒と紫の毒々しい表紙となっているが、当時は2人のおじさん(金持ち父さんと貧乏父さん)のイラストが描かれた親しみやすいデザインだった。子どもでもとっつきやすそうだ、と思い、当時の売れ筋書籍を並べたコーナーで本書を手に取り、購入してみた。

が、ほとんど読まないまま、後年、ブックオフに売ってしまった。

社会人経験を積み、家族を持って資産運用の大切さを痛感するようになると、本書の意義が分かる。しかし、当時は「自分のビジネスを持とう」「お金の流れを読もう」と言われても、部活動でボールを蹴る方が大事だった。

それは仕方ないが、今となっては「こういう金銭教育、金融教育をしてくれる大人が身近にいたら、お金に対する見方が変わっていただろうな」とも思う。

この記事が、その一助になれば幸いである。

 

本書の位置付け=全世代向けマネーの教科書

本書の位置づけを端的に表すと、全世代向けに書かれたマネーに関する教科書(初級編)。

最近は具体的なノウハウを解説した資産運用本が多いが、そうした本は経済状況の変化により無用の長物になりかねない。この点、本書は20年も前に書かれた、お金に関する考え方を紹介している普遍的な書物である。

ただ、もちろん、今の日本の実情に合わない記述もある。例えば、不動産価値に関する記述は日米で事情が異なる。本書は強気で攻める投資姿勢を推奨するが、時代によっては「負けないこと」を優先すべき場合もあるはず。そのため、われわれ日本人が記述内容をそのまま現実に当てはめても、うまくいかない場面はが出てくるだろう。

さて、本書から学ぶ点は大きく分けて3つあるように思う。

  • 「資産」とは何か
  • お金に対し、どのような姿勢・考え方で向き合うか
  • どうやってスタートを切るか

学ぶことはもちろん大切だし、考えることも欠かせない。しかし、それだけでは頭の体操にしかならない。大切なのは行動に移すこと。細かすぎるアドバイスは状況が変われば価値がなくなる。本書は終盤でスタートの切り方を詳細に記述しており、これこそ本書が良書たる所以だと筆者は思っている。

 

【要約・まとめ】「資産」とは何か

多くの人は、お金がたくさんあればすべての問題が解決すると思い込んでいる。しかし、そう思っている人は、収入が増えたところで支出も増えるから「金がなくなる」という恐怖は消えない。

そこで、金持ちになるためには資産と負債の違いを知り、その上で資産を持たなければならない。

金持ちは資産を手に入れる

中流以下の人たちは負債を手に入れ、資産だと思いこむ

著者による資産と負債の定義は簡単だ。資産はポケットにお金を運んでくるもの。負債はお金を運び出すもの。この区別ができていないから、金持ちになれない人は多い。

どういうことか。例えば株式を買えば、値下がりのリスクもあるが、値上がりの可能性もあり、配当金が手に入る。配当金も再投資すれば、複利効果でボリュームが増える。

一方、住宅は値上がりするケースもあるが、日本の多くの物件は時間の経過とともに値下がりする。車はいわずもがな。つまり、買った瞬間から値下がりする(時間の経過とともに価値が下がる)消費財を負債と呼ぶ。

資産のボリュームを大きくすることが、さらに多くの資産を生む。そのことが生活に余裕を生む。手元のお金をどう使うかが大切なのである。このことを誤解し、単に手元のお金が増えればいい、と考える人は、収入の増加に合わせて支出が増えてしまい、結局は元と同じ水準の生活に甘んじてしまう。

お金を「自分の労働者」に

金持ち父さんは、お金がどのように動くかを理解し、お金を働かせる方法を学ぶように奨励した。

株式、債券、著作権などの本当の資産は、自分がその場にいなくても収入を生んでくれる。これを「自分のビジネス」と呼ぶのだとすれば、お金は、さながら自分のために24時間にわたって働いてくれる労働者だ。

お金のために働く人は、お金の奴隷になっている。大抵の人は自分ではなく周囲を変えたいと思うが、問題は常に自分にある。誰かのため、何かのために働いている人は悩みが尽きない。

では、具体的にどのようにお金と向き合い、スタートを切ればよいのか。㊦で紹介する。(つづく)

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、地元新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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