マスメディアで頻繁に登場する「変化率」。よく「〇%減」「△倍」といった見出しが躍るが、これを見掛けた読者・視聴者は注意が必要だ。
以前に出席した東京でのセミナーで講師が言っていた。
「変化率を多用するな。時にミスリードになる」
変化率とは比較対象と比べ、今がどんな水準にあるかを示す点で便利。
ただ、比較対象や今の数字が、大まかな傾向から外れた異常値(外れ値)なら、実態以上に大きく見えたり小さく見えたりする。
例えば、コロナ禍2年目の2021 年、企業の業績は決算短信を見る限りでは「営業利益は前年同期比5倍」など、空前の好業績にように映る。
しかし、これはコロナ禍1年目のどん底と比べているからであり、コロナ禍前と比較すると、実は3割減や半減だったりする。
この場合、今年の業績がどんな水準にあるかを正確に把握する際に適した比較対象は、もちろん後者だろう。
店舗数は増減率で表すべきか
比較対象の妥当さを考える上で好例がある。
先日、地方紙に「石川のドラッグストア、店舗増加ペース鈍化」という記事が載った。月ごとに前年同月からの増加率を並べ、そのパーセンテージが小さくなったことを理由に「鈍化」と主張している。
このロジックが誤りであるのは明白である。
下のリンクにある過去の記事で見たように、石川県内にあるドラッグストアの店舗数は200店ほど。少ない年は年間数店、多い年は20店ほど増えている。
店舗数は売上高や利益と異なり、期初にリセットされない。長い期間の中で少しずつ増減する。
変化率は分母が累積する性格のものには向かない。分母が大きくなれば、増加率は必然的に鈍るからだ。既存50店に新店10店が加われば「20%増」だが、既存200店に30店が加わっても「15%増」にとどまる。
そもそも、自分の生活圏でどれだけドラッグストアが増えたかを考える時に「ここ3年で20%ぐらい増えた」と言うだろうか。普通は「3年前は5店で、最近、駅前に1店できたから、今は6店」と考えるだろう。
「ニュースっぽさ」のある記事
上述したドラッグストアの記事は①何かの理由で「増加ペース鈍化」と印象付けたいために事実を歪曲した②数字を理解できない記者がカッコつけて記事らしきものを書いてみた―のいずれかだろう。①は作為、②は不作為。形は異なるが、どちらも救いようがない。
①はマスコミにありがち。
「内容のニュース性を示す見出しを付ける」という原則が、いつしか「ニュースっぽく目立つ見出しの付く記事を書く」に置き換わる。
ドラッグストアの記事で言えば、そもそも年20店程度しか増えない1県の増減数を変化率で表すべきではない。ブレが大きすぎる。
北陸3県という、より大きなまとまりなら、純増数はむしろ加速度的に増えていると分かる。これが事実だ。
マスコミがこれ見よがしに使う「変化率」を見たら、それが本当に実態に即しているのか、訳も分からず「目立つ見出し」を付けたかに注意して読むべきである。