連載【みやびの宿 加賀百万石】㊦ 新社長の吉田久彦氏インタビュー<前編> 「1館3ブランド」で復権へ/別邸を核に人材・サービス強化、全体を底上げ

連載【みやびの宿 加賀百万石】㊦ 新社長の吉田久彦氏インタビュー<前編 data-src= 「1館3ブランド」で復権へ/別邸を核に人材・サービス強化、全体を底上げ" width="730" height="410" >

加賀市山代温泉の旅館「みやびの宿 加賀百万石」の運営会社社長に、前身の旧「ホテル百万石」創業家の吉田久彦氏(39)が就いた。足元は長引くコロナ禍、雇用調整助成金の不正受給による信用低下などマイナスからのスタートとも言える。2022年10月28日、新社長に今後のビジョンを聞いた。(国分紀芳)


「ここは腐っても百万石」

インタビューで最も印象に残った一言だ。

創業家、記憶、苦悩、プライド、再興、決意、将来…。名旅館の跡取りに生まれ、華やかな館内を遊び場にして育った。旅館の破綻により、すんなりと後継者になることはなかったが、今、思いがけず「百万石」を任されることに。そのさまざまな感情がにじみ出たような言葉である。

吉田久彦 加賀市出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、JTB勤務、森の栖リゾート&スパ支配人などを経て、2021年にコンサルタントとして独立。2022年10月17日、株式会社みやびの宿 加賀百万石の社長に就いた。39歳。

まとめページは以下のリンクから

別邸「奏」、いずれ2室を1室に

広大な庭園を取り囲むように幾つもの建物が並ぶ。旧ホテル百万石は増築に増築を重ねて大きくなった。七尾市和倉温泉の加賀屋が20階建てで高層ホテルのような出で立ちであるのに対し、こちらは最大8階で、以下の写真の通り、横に長い。

横に長い「みやびの宿 加賀百万石」

客室は「本館北」「本館南」「別邸『奏』」に計224室。新社長として、まずは、この3つを別物と見立て、横に長い巨大な館内で3ブランドの旅館を運営するかのような体制を敷く。

鍵になるのは高級路線の「奏」だ。

ホテル百万石時代に「梅鉢亭」と呼ばれ、昭和天皇も宿泊した建物で、ここを「旅館として最上級のサービスを表現する場にする」。かつて「日本一の名旅館」とも称されたホテル百万石の流れをくむ「加賀百万石」のブランドを引っ張る存在にしたいという。

期待値を上回るために

吉田社長の持論は「期待値を越えないと満足いただけない」。期待値100ポイントで来館する宿泊客に100ポイント相当のサービスをしても「こんなもんだね」と思われるだけ。120、130ポイントのサービスではじめて満足してもらえるという。

旅館のサービスに欠かせないスタッフは、往時の旧ホテル百万石では400人を数えた。時代が違うので単純比較はできないものの、現状の90人(パート・アルバイト含む)は「かなり少ない。採用を強化しないと」。

しかし、ただでさえ人手不足だった宿泊業は長引くコロナ禍で人材の流出が加速している。募集しても簡単に集まらないのは明らか。ならば、現在いるスタッフでどう戦うかを考えるのが先決だ。まずは従業員教育に力を入れて「奏」を任せられるスタッフを育成する。

少人数であまりに多くの仕事をこなそうとすれば、サービス品質は低下しかねない。クオリティーを維持・向上させるため、現在40室弱の「奏」は2室を1室に統合し、ゆったりとした空間に改装するプランを温めている。従業員に無理を強いることなく、高付加価値のサービスを実現したいからだ。

また、従業員は現在、和風のユニホームを着て業務に当たっているが、「奏」では本当の着物を身に着けて接客に当たるように改める。装いの点からも「本物」を追求するようだ。

本館南は団体客、本館北は個人客に

最も広々とした本館南は団体客主体、本館北は個人客主体ですみ分ける。

1つの大きな館を3つのブランドに分け、それぞれのエリアを特色づける。そうすることで、求められるサービス、提供すべきサービスを明確化し、ブランド力を底上げする狙いがあるように筆者は受け止めた。

接客は「つかず離れず」で

吉田社長は39歳で、筆者は37歳。同世代として意見が一致したのが、宿泊客の感覚の変化だ。

旅館文化というと、すぐに「おもてなし」が連想されるが、この言葉の定義も時代によって変化すべきである。一昔前なら、仲居さんが部屋に密着して至れり尽くせり、極論すれば宿泊客が何もしなくても全てが整う、というのが「おもてなし」だったかもしれない。

だが、今の若い世代には、他人の干渉を嫌う人も多い。「かゆいところに手が届く」という言葉があるが、かゆくても他人の助けを嫌がる人もいるので、手を差し伸べるのが正解とは限らない。

この解決策はというと「一朝一夕にはできない」という。「あえて言えば『つかず離れず』。その中でお客様の空気を読む力を身に着ける」「そんな蓄積の上で『百万石スタンダード』みたいなものを作れたらいいな」。にこやかな表情で、なかなか難しいことを言う。

「古い設備」欠点を売りに変える

インバウンドの比率は30%が目標

さて、仮にスタッフの人数を確保し、レベルアップに成功しても、この「みやびの宿 加賀百万石」には、大きな欠点があると筆者はみてきた。それが設備(構造)の古さだ。

このサイトでも過去に触れたが、旅行のトレンドは団体から個人に移っている。往時の旧ホテル百万石では団体旅行の貸し切りバスが玄関に横付けし、宴会場で飲めや歌えやの騒ぎを繰り広げたのだろうが、今やそうした団体客は少ない。

ところが、吉田社長はここを欠点ではなく武器と捉えている。「確かに団体は減った。でも『減った』だけで、一定数はある。そして、今やみんなが一堂に会せるような旅館はなくなってきた」。経営学で言う「残存者利益」に近い考え方だろう。

とは言え、市場が縮小しているのは事実。巨大な旅館の再興には拡大する市場の取り込みも必要になる。そこで生きるのが、またまた例の古い設備(構造)だという。

「広大で、いかにも和風な旅館って、インバウンドの方には絶対に満足いただけると思う。これが日本の温泉旅館だ!って」

インバウンドは連泊の傾向が強いので、売り上げ貢献度は高い。ゆくゆくは売り上げベースで国内客7割、インバウンド3割の構成を目指す。

日本庭園の真ん中に復活させたいのは…

このインタビューの終盤、吉田社長はとっておきの計画を紹介してくれた。

前述の通り、「みやびの宿 加賀百万石」は建物が日本庭園を囲むように造られ、庭園の真ん中には池がある。

「昔、あそこはプールだった。父に言わせると『ハワイ風』の。前職のホテルでも感じたけど、プールは特に夏場の集客につながるから、ぜひ復活させたい」。ただ、再び整備したいのは「ハワイ風」ではないらしい。

「イメージは『和風庭園プール』。岩風呂みたいな」

「巨大な露天風呂みたいな?」

「そうそう」

「あ~、じゃあ脇にあるのはパラソルじゃないか」

「そう、和傘をさして。喜ばれるでしょ?」

インバウンドの獲得目標を聞いた後だけに、庭園内の大きな和風プールを、水着姿の外国人が泳ぐ光景を想像した。

もちろん、ここまで紹介した投資を一気に実現できる営業状況ではないし、旧ホテル百万石の破綻はバブル期の過剰投資にあると認識しているだけに、投資判断は慎重だ。

「まずは採算ラインを確保し、安全・安心な宿づくりに取り組み、その上で少しずつリニューアルできたらいい」

足元を意識しながらも、目線は遥か彼方を見据えていた。

(インタビュー後編に続く)

PAGE TOP