【続報】クスリのアオキHD、「物言う株主」が5議案を提案/取締役会は全てに反対/要約を掲載

【続報】クスリのアオキHD、「物言う株主」が5議案を提案/取締役会は全てに反対/要約を掲載

2023年7月18日

クスリのアオキホールディングス(HD、白山市)は2023年7月18日、同年8月に予定される株主総会に向け、大株主の外資系のファンド「OASIS INVESTMENTS Ⅱ MASTER FUND LTD.pany Ltd.(以下、オアシス)」から5議案を提案されたが、取締役会として全てに反対すると発表した

【8月17日追記】8月17日に開かれた株主総会で、株主から提案のあった議案は全て否決されました。

最新の会社四季報によると、オアシスの持ち株比率は4.9%となっている。

以下、ちょっと長いけど、株主側の提案理由と会社側の回答を筆者なりに張り切って要約したものを掲載する。

「物言う株主」外資系投資ファンド、クスリのアオキHD株の大量保有報告書を提出

外資系投資ファンド「Oasis Management Company Ltd.(…
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株主提案①我らが選ぶ社外取締役1名を新任せよ

株主側「創業家の力が強すぎ。業界再編に対応できない」

社内取締役5人のうち3人を創業家が占め、株式も30%弱を保有、最高顧問・会長・社長・副社長という要職を創業家が占めている。創業家が大きな影響力を持つなら、少数株主の利益を保護する仕組みを整えないといけないが、ほとんど導入されていない。

社外取締役は3人いても、経営経験のあるのは1人のみ。業界再編の機運が高まり、創業家と株主の利益が相反する場合、助言や業務執行を監督するには不十分なので、M&Aに知見のある池井良彰氏を加えよ。

会社側「M&Aは喫緊の課題じゃない。違う人を充てる」

現時点で統合は取締役の重要な役割じゃない。社外取締役の増員が必要な認識はあるが、厳しさを増す経営環境の中、企業価値を継続して高めるには、ドラッグストア業界やクスリのアオキHDの事業への深い理解・知見を有する社外取締役をこそ増員すべき。

今回は現任取締役9名の再任、元社員で他の会社の代表をしている藤井大温氏を社外取締役に新任することを会社側から提案する。株主が提案した池井氏はM&Aの経験や識見があるが、M&A仲介会社の代表者としてクスリのアオキHDに関わってもらう方が望ましい。

株主提案②定款変更で「筆頭独立社外取締役」を

株主側「そもそも株主と対話しない姿勢なのはオカシイ」

独立社外取締役を選任し、複数人を選ぶ場合は互選によって「筆頭独立社外取締役」を決める規定を設けよ。

私たちは何度も代表取締役やIR担当取締役らと面談を求め、一切拒絶された。社外取締役と接触しようとしてようやく、IR担当取締役が出てきた。

クスリのアオキHDには、社長やIR担当取締役が投資家と対話しない原則があるらしい。これじゃあ企業価値を向上させる機会を逸するので、筆頭独立社外取締役の選定を求める。

会社側「現行体制で十分。おっしゃる経緯も違う」

筆頭社外取締役には「社外取締役間の議論、認識共有」「社内取締役や経営陣との意思疎通」などの役割が主に期待され、既に実現されている。筆頭独立社外取締役を選任する必要性はない。

提案株主による面談要請に対しては、既に開示している自社の「株主との建設的な対話に関する方針」に則り、提案株主からの要請を取締役会に報告し、提案株主にも面談の調整に際して説明した。「一切拒絶」は違う。

IR担当取締役との面談も、提案株主から社外取締役と面談したいと要請されて検討したところ、自社の方針で社外取締役との面談を設定しない旨が明示されており、提案株主の要請に応える方法としてIR担当取締役が面談することにした。経緯が違う。

「すごくヘトヘト。もっとジュースを飲みば、次の試合に勝てると思う」と言う子どもに、親が「500ml分の汗を流して初めて飲み物を口にできる決まりだ」と伝えてる感じか。

株主提案③指名報酬委員会を設置せよ

株主側「創業家から独立して指名・報酬決定すべき」

取締役の選任に関する方針や手続きを開示していない中、創業家の影響力が強い取締役会の実効性に疑問がある。また、事実上は役員報酬っぽい創業家への新株予約権も発行しており、取締役会が株主と創業家の利益を調整できるか懸念している。

よって、創業家から独立し、社外取締役が過半数を占める指名報酬委員会を設置せよ。

会社側「既に検討中。だが、ご提案の内容では逆効果」

指名や報酬決定のプロセスの客観性・透明性アップを求める世論は認識している。他の投資家からも同様の意見が出ているので、現在、指名報酬委員会を検討している。

提案株主の発言趣旨は理解しているが、株主提案のような規定を定款に設けると、指名・報酬決定が機動的で柔軟に運用できず、かえってコーポレートガバナンス体制を硬直化させるおそれがある。検討状況や決定事項はまた開示する。

株主提案④社外取締役の報酬、年1,000万円に固定を

株主側「報酬アップで有能な人材を呼び寄せよ」

創業家の影響力が強い取締役会を監視するため、有能な人材を社外取締役に選ぶのが大事。役割に見合う報酬を払うべきだが、直近は4人に1,400万円、2人に600万円で少ない。

報酬を予見しやすくするためにも、今のような役員全員の総額ではなく、個々に上限額を決めるべき。そこで、社外取締役1人につき固定で年1,000万円を提案する。

会社側「固定すると、逆に支給根拠が不明瞭に」

取締役会を適切に監督し、企業価値を向上させるため、社外取締役に経験豊富で有能な人材を登用して正当な報酬を支払うという認識には同意する。

しかし、取締役への報酬は各自の知見や役割に応じて設定すべき。報酬額を固定すると、かえって報酬の支給根拠が不明瞭となるおそれもある。

株主提案⑤社外取締役の報酬として譲渡制限付き株式を

株主側「企業価値アップへのインセンティブに」

現状は使用人分の給与とは別に、取締役の報酬限度額は年300万円以内だが、企業価値の持続的アップに向けたインセンティブを高めるため、社外取締役各自に年300万円の譲渡制限(3年以内)付き株式を付与すべき。

社外取締役自身が少数株主の立場で株主の利益を代表することも期待できる。

会社側「独立性確保には固定のみが望ましい」

社外取締役の報酬は独立性を確保し、適切な監督機能を発揮する観点から、固定報酬のみが望ましい。また、多くの機関投資家の議決権行使基準でも、社外取締役への株式報酬は原則として反対されており、あえて個人別の株式報酬を導入する必要はない。

以上。ファンド側の真の狙いは不明だが、表面上は「創業家の力を弱くし、社外役員の権能を高めたい」という動きに見え、会社側はおおむね「現状で十分」と繰り返した感じ。

互いに「対話が大切」と言いながら、でも議論が全く噛み合わない感じに、読んでいて疲れた。

さらに外資系ファンドが株式を取得?

ちなみに、クスリのアオキHD株を巡っては、2023年7月7日、バミューダに本拠地を置く「オービス・インベストメント・マネジメント・リミテッド(以下、オービス)」がクスリのアオキHD株の5.2%(163万株超)を6月末までに取得した、と関東財務局長に報告している。

オービスやクスリのアオキHDを含むドラッグストアの再編に関しては、こんな記事(東洋経済)が出ているので参照されたい。野次馬的には少しずつ面白くなってきた。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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