石川県「学力日本一」に見る滑稽さ/実際の順位は…/なぜ、ランキング崇拝しちゃうのか考察してみる

石川県「学力日本一」に見る滑稽さ/実際の順位は…/なぜ、ランキング崇拝しちゃうのか考察してみる

たびたび話題になる全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のランキング。2023年、石川県は複数科目で正答率が全国トップとなり、一部の地方マスコミや自治体は相変わらず「学力日本一」。でも、待って。俺らの周り、そんなに優秀な人ばっかり?

※筆者は石川県出身で、県外の大学を出てUターンしました。石川県や金沢市が嫌いではなく、むしろ好きですが、最近は他都市が100年先を見据えて街づくりに勤しむのを尻目に、わが地元が数百年前の栄光にすがるばかりに見え、危機感を抱いています。そうした観点で以下の記事を書きました。

23年、石川県は5教科中4教科で正答率が1位に

2023年度の学力テストで、石川県の平均正答率は全5教科のうち、小6国語、小6算数、中3数学で全国1位、中3国語が2位、中3英語が4位だった。

この「上々の結果」に対し、追って「行き過ぎた対策が続いている」との報道が相次いだ。北陸放送(MRO)によると、実に44%の小中学校で、授業中や宿題、春休み期間を利用した過去問演習が行われていた、ということを指しているらしい。

こうした報道については「学力が高いのは良いことだろ」「じゃあ、何?順位が下がっても良いの?」という批判が散見された。

「行き過ぎた対策」に焦点も、問題は別では?

しかし、双方とも問題の所在をはき違えているのではないか。

何らかの目標に向けて対策する経験は、生徒にとって有益だろう。目標を設定したら、対策は徹底的にやらないと。それこそ「行き過ぎ」ぐらいがちょうど良く、高い点数をとれたら褒めるべきだ。

問題なのは他県があくまで「調査」と捉えている土俵で無双し、それをもって絶対的な基準で天下をとったように誇り散らす空気感や風潮にこそある。むやみな自画自賛は、その外側から見ると、ひどく滑稽なものだ。

たとえると「練習試合で連戦連勝して『俺らは最強!』って言いふらしてるけど、なんか周りの視線が痛いし、恥ずかしい……」という感じ。

しかも、筆者を含めた多くの県民は「石川の子どもが日本で最も賢い?う~ん…そう…なの?」と実感できていないと思う(それを結果的に誇るかどうかは次の話)。そういう意味では内側との温度差もありそうだ。

石川県の学力は?上位層をみてみる

じゃあ、石川県民は「練習試合」でしか無双できないのか?いやいや、本番にも強いはず。そこで、実際の学力がどの程度なのか、少し調べてみよう。

まずは上位層を切り取ってみる。日本の「学力」の頂点といえば、基本的には東京大学になるだろう。ただ、大学の進学先には地理的な条件も多分に関係するので、今回は東西の双璧をなす、東大と京都大学への合格者数を見てみる。

東大・京大の合格者数は?

とどラン」というサイトに、週刊朝日に掲載された複数年の実績を基に平均値を出した結果が掲載されていた。それを加工すると、都道府県別にみた生徒1,000人当たりの東大・京大合格者数は、以下の通りとなる。

トップ3と北陸3県だけを抜き出した。石川県はいずれも8位。「東大+京大」でランキングを作ってみても8位だった(上記サイトでは東大と京大の集計年度にズレがあるので、足し合わせた結果は参考までに)。

成績優秀な人の中には医学部に進む人もいるので、東大と京大の合格者数で何かを言い切れるわけではない。あくまで上の表に基づく限りでは、全国上位ではあるけれども最上位の地域とは差があるように見える。

ちなみに、近年は石川県の地方紙が「中学校別・泉丘高校の〝合格者数〟ランキング」を載せて地域ごとの序列化を図っている。これは生徒数を考慮してない粗末な内容なのだが、なぜか馳浩知事が「この記事が大好きだ」と激賞する流れができている。

この点、大学も〝合格者数〟という絶対値でみると、石川県は東大が20位、京大が17位になる。地方紙の考え方だと、石川県は「中の上」ぐらいの県になるのだが…それで良いのだろうか…。

ノーベル賞の受賞者は?

それでは、学業の分野で世界最高の栄誉と言える「ノーベル賞」の受賞者数はどうだろう。

2021年10月時点で、日本出身のノーベル賞受賞者は28人いる。出身地別に見ると、最も多いのは愛知県と大阪府の各4人となっている。

ここで残念なお知らせ。お隣・富山県の出身者には田中耕一氏(化学賞、2002年)、福井県には南部陽一郎氏(物理学賞、2008年)がいるものの、石川県はゼロである。

「ま、まあ、考えてみれば学力テストは全ての生徒の平均であって、突出した生徒の割合とはベクトルが異なる。石川県は全体として水準が高いんだ!」と強がって、次は全体レベルを見てみよう。

石川県の学力は?全体をみてみる

高校・大学への進学率は?

まずは高校や大学への進学率。進路については家庭の環境や生徒個人の希望も影響し、進学することが偉いわけでもないが、とりあえず「学力」を示す1つの指標と捉えたい。

高校進学率は順位がついているものの、数字にあまり大きな差はない。一方、大学進学率はそれなりにバラつきがある。石川県をはじめ北陸3県は10位台で「高い方」といったところだ。

大学入学共通テストの結果は?

もっとも、最近は定員割れを起こす大学も少なくなく、進学率が学力と必ずしも一致しないところがある。そこで参照したいのが、国公立大学と一部の私立大学を受験する多くの生徒が挑む大学入学共通テスト(旧・センター試験)の結果だ。

ただ、共通テストは都道府県別の平均点が正式発表されてない。ある教育関連会社が2022年度の受験生40万人超を対象に調査した結果なら公表されており、それによると、石川県の平均点は全国20位ぐらいらしい。

なお、情報ソースは不明だが、YouTubeで共通テストの都道府県別結果と称するものを紹介している動画があったので、下にリンクを貼っておく。それによれば、石川県は21位らしい。

このように、大学受験の指標からは石川県全体の学力が「中の中」に見える。

石川県の子どもたちは小・中学生時に日本一の学力を誇り、高校生になったら急に人並みに劣化する?そんなワケなかろう……。モノサシ同士に整合性がないだけだ。

本来は行政やマスコミが空気を変えないと…

話を戻す。たとえ練習試合でも、相手に合わせた対策をして勝ちを目指すこと自体は尊い。問題は練習試合の連勝をもって「最強」をかたることであり、そんなことをするから、本番の成績との差に、内外から違和感が出るのである。

ただ、その空気感は現場レベルで是正できない。自分たちだけが「あくまで調査」と割り切ったら、熱心に対策した他校との差が広がり、相対的に自分たちの評価が下がりかねない。いかな公務員とは言え、勤め人が、わざわざ評価を落としたいはずがない。

行政や地元マスコミは歪んだ空気感を正すべきなのに、むしろ率先して順位付けを煽っている。確かに、行政は売り文句が確保できるし、マスコミはネタが増えるから助かるだろうが、振り回される子どもたちが可哀想で仕方ないと思うのは筆者だけだろうか。

「オンリーワン」気取るも、自信が持てない

最後に、なぜ、そこまで石川県民がランキングに執着するのかを考察してみる。

江戸時代を通じて日本最大の大藩だった加賀藩。その中心が石川県、金沢市で、幕末の金沢は日本で4番目に人口の多い大都市だった。それが今では全国で30位台。あえて失礼な言い方をすると、松山市や大分市よりも少なくなっている。

一般論として、人口というのは何らかの理由でその街に住む選択をした人の積み重ね。街の魅力や勢い、規模を表す指標だと思う。

その人口で次々と各都市に追い抜かれる中、今なお「加賀百万石」のプライドをズリズリと引きずる金沢は、独自のポジショニングを狙うように。文化とか伝統とか風格とか、どうにでも定義できるものを掲げて「オンリーワン」な都市を標榜したのだ。

地方の中小企業と都会の上場企業が正面から競争しても勝ち目はない。同様に、金沢が大都市との正面衝突を避け、独自の立ち位置を目指すのはマーケティング的に正しい(でも、最近はかなり暴走している。詳しくは下記リンクの記事を参照されたい)。

【妄想?】進む「金沢旧市街地空洞化計画」とは/緑地に次ぐ緑地/目指すは比較不能な「オンリーワン都市」?

※金沢の未来について抱く大きな危機感を覆い隠し、フザけて自虐的に書いてます。フィ…
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問題はオンリーワン路線を気取るようになってなお、根底のプライドが「百万石」という量的・規模的なものに裏打ちされている以上、どうにも自信が持てないことだろう。

「比べられたくない」「でも比べないと、自分たちの正しさが実感できない」。そんな複雑な感情が石川県民のランキング好きに現れていると、筆者は感じている。

「世界で最も美しい駅●選」だの「魅力度ランキング4位」だの「幸福度日本一を目指す」だの、評価された(される)のが嬉しくて、行政もマスコミも住民も大はしゃぎ。「幸福度」なんて「割り切り」「諦め」の裏返しであり、ハングリーな街の方が発展するし楽しいでしょ?

そんな、こじらせ度MAXな心境を反映したのが「学力日本一」なのだろう。周りが本気じゃない土俵なら勝ちやすい。そこで勝っておけば、他で負けても体面を保てる。そんな気質に起因した根深いものだとしたら、この歪んだ空気感はいつまでも払拭できないだろうな。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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