「DX」の肝は「D」ではなく「X」/そもそもDXって何?/陥りやすい落とし穴

「DX」の肝は「D」ではなく「X」/そもそもDXって何?/陥りやすい落とし穴

2022年2月25日

最近では毎日のように見聞きする言葉「DX」。これは「デジタル・トランスフォーメーション」を英語にしたものだが、内容を理解し切れていないケースが多いと思う。

結論から言うと、これが意味するところは「D(デジタル)」を通じて「X(トランスフォーメーション)」を実現すること。それなのに、Dで立ち止まっている企業が少なくない。なぜだろうか。

DXの定義とは

そもそも、DXとは何か。2018年12月に経済産業省が公表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0」によると、DXの定義は…

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

いや、長いし、難解。簡単に言えば①デジタルの力を使って(=D)②ビジネスを変革する(=X)ことだ。

このうち、Dはトップマネジメントが決断し、機器を購入したりシステムを入れたりすれば短期で解決する。しかし、筆者の経験ではDとXの間に深い溝があり、Xの実現は社員レベルの意識改革が必要で、なかなか進まない実情がある。

プロ野球の大谷翔平と同じバットやグローブを買えば、誰もが二刀流で大活躍できるわけではない。若い頃から毎日の筋トレや異常な量の練習をこなし、食事や睡眠にまで気を配らないと、大谷はおろか、活躍する野球選手にはなれないだろう。

ビジネスマンで言えば、最新のツールも使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。その文脈で、反面教師として、筆者が新聞社に勤めていた頃の事例を紹介する。

相手先まで行ってリモート取材??

コロナ禍では、広域の移動が自粛され、リモートのインタビュー機会が増えた。それまでは相手先での対面取材が基本だったが、リモート取材は現地に行かないので移動時間が短縮できる。接続1分前まで別の作業をしても問題なく、生産性に優れ、これまでより多くの仕事ができるようになった。

ところが、そんな中で先輩が驚きの行動に出た。

「インタビューに出掛けてくる」

「あれ?リモートじゃありませんでした?」

「そうだよ。相手の社長は東京にいるから。でも、話は〇〇市内の相手の事業所(職場から車で片道1時間)で聞くわ」

「ん?ここからじゃなく、わざわざ相手先へ行き、東京とリモートで話すってことですか?」

「そう。相手の顔も立てなきゃ」

上司は1時間のリモート取材のため、昼前に会社を出発し、夜まで帰ってこなかった。

取材に使ったツールは「Zoom」らしい。同時に多数の人が遠隔で会話できるZoomを使うために相手先へ……それが「顔を立てる」ことなのか?どれだけ考えても理解できなかった。

ふと、その先輩が何かと「でも、去年はこうだった」「けど、昔はああだった」と言っていたのを思い出す。

こういう類の人にまず必要なのは、最新の機器やシステムではなく、費用対効果の感覚やデジタル環境下の効率的な仕事に関するレクチャーだ。そうしないと、社内イントラを改善してもリモート会議の仕組みを整えても、結局は「印刷した紙の回覧」「皆が集まれる会議室の確保」を求められかねない。

こうして、経営者は最新の仕組みを整えたこと自体に満足し、変化を好まない現場の管理職は昔ながらの方法に固執し、若手はモヤモヤして従うものの急に嫌気がさして退職する、という歪んだ構図が完成する。

これなら、以前の方がマシ。

わざわざコストをかけて「D」を整えたにもかかわらず社内の歪みを増幅しないため、まずは追求すべき「X」の内容やDXを通じて成し遂げたい目標を見極めなければならない。その上で、そこから逆算して必要な「D」の内容を考えるとともに、DとXの間の深い溝を埋めるために、社員の意識改革を進める教育を施すのが不可欠だろう。

国分 紀芳

国分 紀芳

1985年生まれ。石川県出身。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社に入社。キャリアの大半を経済記者として過ごす。2022年2月に独立・起業した。

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