2022年3月1日付北國新聞の朝刊に「金沢エムザにツタヤ」という記事が載ったのを、複雑な心境で見た。これまで香林坊大和、金沢エムザの2店が存続してきた金沢の百貨店市場も、いよいよ終焉の時期が近付いたような気がしたからだ。
そもそも、今の百貨店の価値って、どこにあるのだろう?
「百貨」は「たくさんの商品」という意味だが、現代では実店舗が頑張って品ぞろえを充実させても、インターネットショップには敵(かな)わない。
もちろん、対ネットでは「実際の商品に触れられる」という利点もある。しかし、それとて「見るのは店、注文はネット」とショールーム替わりに使われることも多い。
今日的な意義があるとすれば「地域で馴染みのない、新鮮味ある品を紹介する」という点になるだろうか。つまり「へえ、こんなの初めて知った」という特別感ある体験の提供を通じ、結果として商品を売るというビジネスモデルになると思う。
ぬぐえぬ新鮮味の薄さ
大学時代、初めて新宿の百貨店「高島屋」を見た時、大きなスペースに「東急ハンズ」が入っていることに驚いた。「これじゃ、テナントビルじゃないか」。ただ、当時、大きな東急ハンズは新宿周辺で高島屋にしかなく、大学生が一見して場違いな百貨店に何度も足を運ぶきっかけになった。
今の百貨店の課題は来店動機の不足だろう。
特に地方では、魅力的な商品や特別な空間がなければ、わざわざ駐車場代やバス代を払ってまで百貨店を訪れない。ただ、注目すべきは「北海道展」など食の催事は好調ということ。百貨店自体が必ずしも敬遠されているわけではなく、そこでしかできない体験・買い物があれば、今も人は集まってくる。
この点、ツタヤブックストアは金沢市大桑やイオンモール白山に加え、富山、福井にもある。「ブックストア」と銘打たないツタヤは、もっと多い。縮小する百貨店市場では反転の起爆剤として「北陸初」「日本海側初」のような店が要るだろうに、そこら中にあるツタヤでは真新しさに乏しい。
エムザのツタヤは客層の拡大、商況の好転に向け、来店動機を創り出せるか?筆者は懐疑的である。
なぜ、こんな半端な発表なのか?
記事を読むと、残念な点が幾つか見つかる。
まず、オープン時期は「今夏」にもかかわらず「フロアや店舗面積、コンセプトは今後協議する」という。暦の上で3月は既に春である。経営改善に向けた改装の目玉を半年以内にオープンさせるのに、どこに、どれぐらいの規模で設けるか想定すらしていないと言うのか。
この手の記事では、本格決定されてなくても現時点で想定する規模や店の形を記述し、読者にイメージを膨らませてもらい、最初の集客につなげるべきもの。今回は取材した記者がきちんと内容を詰めなかっただけだと思いたい。
一方、本当にエムザ側が「追い追い検討しよう」と考えているなら、危機感が薄すぎる。そして、そんな未定のことばかりの段階で、なぜ発表したのか。いずれにせよ理解に苦しむ。
さらに、記事中でツタヤは「テナント改革」「核テナント」と紹介されているが、読み進めると、百貨店が自らやる直営店になるらしい。
当たり前だが、テナントとは事業者がオーナーから場所を賃借して営業すること。「テナント」の意味すら分かってないのは誰なの?
エムザのツタヤ。何だか、前途多難なスタートだ…。
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