※29日12時半の追記箇所は下線部です。
コロナ禍で物販・飲食業がダメージを受け、それらの業者の撤退が進む大型商業施設に空き床が目立っている。各施設はガチャガチャ専門店やイベントスペースなどでしのぎながら、後継テナントの誘致に励む。その労苦は察するが、それにしても「今さら」な後継テナント候補が増えてきたところに違和感を禁じ得ない。
「砺波市のイオンモールとなみが、館内のスポーツ用品店跡の活用策として、映画館を検討している」とする報道があった。2015年のオープン当時、イオンモールなのに映画館がない背景を広報担当者に尋ねて「近くのイオンモール高岡に映画館があるし、となみは普段使いの施設としてすみ分ける」と説明された記憶がある。
確かに、館内はイオンモール高岡、後にオープンするイオンモール白山より狭いし、吹き抜けなど特別感を演出する構造にもなっていない。テナントの顔ぶれも、お手頃な価格帯の店が多いようで、説明に納得した。
ところが、ここに来ての映画館。この数年、ネットフリックスやAmazonプライムが急速に普及し、映像作品を巡る環境は大きく変わった。世代によっては、映画は映画館ではなく、自宅のテレビやパソコン越しに観るものと考えている人も増えていると思うし、今後も流れは続くだろう。
差別化が難しいシネコン、書店
筆者が知る限り、シネコン(シネマコンプレックス、複合映画館)で上映する作品は、どこも似たり寄ったりで、差別化は難しそうだ。高岡市や富山市、地理的に近い金沢市近郊に幾つもシネコンがある中、砺波に新しい映画館を作ったとして、地元住民以外が「映画を観るなら、やっぱり砺波まで足を延ばさないと」と考えるとは思えない。
結局、イオンモール高岡まで行って映画を観ていた砺波市民や南砺市民が、行き先をイオンモールとなみに変えるだけになるのではないか。映画館に行く頻度なんて、極端な人を除けば普通は多くても週1回ほど。それだけ限られたエリアの人だけで映画館を維持できるだろうか。
上記を要約し、Twitterで「あちこちにあるものを作っても他から人が来ない」と書いたら「あちこちにはない。富山県は人口比で映画館が少ない」「石川県民には分からない」といった返信があった。
後者は問題外として、前者は課題をはき違えている。映画館云々の直接の原因はスポーツ用品店退去の事実で、根本的な課題はモール自体が盛り上がらずテナントが歯抜けになる現状にある。
「日常使い」を掲げたモールが苦戦している以上、人口減少時代にこの課題を解決するには、施設を活性化させて遠方からも人を集める起爆剤が必要。それには隣町に既にあるような機能では力不足だ。モール自体を長く維持するためには「うちの近所にも映画館がほしい」というミクロな視点を抜け出さなければならないだろう。
さて、差別化が容易ではなく、しかも周辺に幾つもあるテナントに集客の要としての役割を持たせようと期待する類似例に、金沢エムザへ書店「TSUTAYA BOOKSTORE(ツタヤブックストア)」を導入する計画がある。
TSUTAYA BOOKSTOREは金沢近郊に2店あり、富山、福井両県にもある。筆者の見るところ、暖色系の照明の店内にカフェを併設し、テーマ性のある棚づくりを心掛けるブランドのようだが、それとて特別に珍しいものでもない。地場の明文堂書店も文苑堂書店も、大なり小なり同じような店づくりだ。
例えば、上層階を全てIKEAにしてみたら?
書籍は基本的に定価通りの販売だし、人気作家の新作を独占販売することもなく、競合他社との違いを打ち出しにくい。消費者からすると、店の大小やポイント制度の違いを除けば、どこも似たり寄ったりだ(筆者は大の書店好きで、けなしたい意図はない)。
前回の記事を読んでくれた金沢の不動産会社の社長が、感想を述べる中で自身を振り返った。「私も以前、まちなかに書店を導入したが、それ自体では集客につながらなかった」
仮に北陸最大の書店ができるなら、やや話は違う(それでもネットとの比較という問題は残る)。でも、基本的には、今どき遠回りしたり、バスを途中下車したりして「他にもある書店」に通う人は少ないだろう。
批判ばかりしても仕方がない。例えばエムザなら、せっかく立体駐車場との空中通路があるのだから、従来の百貨店機能を1、2階に絞り、3階以上の全てを北欧発のインテリアショップ「IKEA(イケア)」にしてはどうか。
空き床を埋めるのが目的なら、どこの何を導入してもいい。ただ、本当の意味で施設の活性化を進めたいなら、いま北陸にないものを誘致し、遠くに住む消費者が「わざわざ出掛けたくなる」動機を作らないといけない。コロナ禍でのテナント交渉は大変だろうが、そういうワクワクするようなテナント誘致話をこそ、聞きたいと思う。
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