※追記箇所を緑色の文字にしてあります。
パーキンソン病専門の有料老人ホーム「PDハウス」を展開するサンウェルズ(金沢市、東証プライム上場)に、訪問看護に関する診療報酬の不正請求疑惑が持ち上がっている。
疑いが表面化したのは共同通信社による2024年9月2日の報道。サンウェルズ側は法的措置も辞さない構えを見せる一方、特別調査委員会を設置して事実関係の調査を始めることを表明。この間に株価は直近の高値から4割近くの急落となっている。
この件について、(ほぼ)時系列に沿ってまとめてみた。
目次
2024年9月2日、共同通信社の報道
疑惑が広まる端緒となった共同通信社の報道を要約すると以下の通り。
11都道府県に約40カ所あるPDハウスのうち、複数のホームで、併設する訪問看護ステーションが事実と異なる記録をつくって診療報酬を不正に請求していたことが現役・元社員の証言で分かった。
本来なら患者の状態に応じて訪問回数や職員数を変更すべきところ、共同通信社は「1日3回」「複数人での訪問」と必ず入力するとした社内マニュアルを入手した。
サンウェルズは「報酬の不正請求については過去に一部職員の知識不足で類似事例があったが、自主的に返還した。訪問回数や複数人での訪問は、主治医の指示に基づき適切に決めている」とした。
筆者は一読者として、報道内容の焦点は「マニュアル」の存否、それがいつの話で、それに基づいて虚偽の記録を作成したケースがどれぐらいあるのかという点だと思うが、記事後半で深掘りしていないことに違和感を持った(取材時のやり取りについて、サンウェルズ側が公開した情報の要約を後述する)。
9月3日、サンウェルズが否定コメント
共同通信社の報道があった翌日3日、サンウェルズは上場企業が経営に関する重要な情報を発信する「適時開示情報閲覧サービス『TD net』」などを通じ、報道内容を否定するコメントを出した。この本文を要約すると、以下の通り。
そのような事実は一切ない。記事の見出しや記事に記載されている事実は法的な根拠がなく、サンウェルズの信用を毀損しているため、訴訟を含めて法的措置を検討している。
PDハウスにはパーキンソン病の中でも重度の患者を中心に入居しており、訪問看護は主治医からの訪問看護指示書の内容を基に計画書を作成して実施している。また、複数の管理体制を設けているので、報道のように逸脱した行為があれば算定基準を満たしていないものとして保険請求しないか事後に発覚したら保険料を返還している。
共同通信社の報道とサンウェルズの否定コメントがそろった。サンウェルズのコメントが公開されたのは、株式市場が開く前の午前8時55分だ。
しかし、市場では疑心暗鬼が大きく広がっていた。
9月3日、サンウェルズ株はストップ安に
2024年9月3日、サンウェルズ株は売り気配が強く、寄り付く(=取引が成立する)ことなく下落。前日終値の2,916円から500円安い2,416円でストップ安となった。
筆者の記憶だと、この時点ではネット掲示板に「会社が否定してるんだから明日は戻すだろ」という楽観論もあった。
しかし、翌4日もサンウェルズ株は続落。一時は2日連続のストップ安水準となる1,916円まで値下がりした。最終的には前日終値から462円安い1,954円で大引けを迎えた。
訪問看護ステーション19カ所を休止か
このタイミングで、2024年8月1日時点でサンウェルズが展開する全国35カ所の指定訪問看護ステーションのうち、19カ所が休止状態になっているとの指摘も出ている。
訪問看護師は慢性的に人手不足なので、単に人員が確保できていないだけかも知れず、共同通信社による不正請求報道との関係性は分からない。でも、このタイミングで明らかになるネガティブな(イメージの)情報が、事実関係とは別に、人々の猜疑心を高めやすいのは確かだ。
サンウェルズが公表したQ&A
ここで少し時系列をさかのぼる。3日にサンウェルズが公開した否定コメントには、共同通信社による取材のQ&Aが付されていた。全5問のうち今回重要な4問の要約は以下の通り。
【Q】入居者の状態に関係なく、基本的に訪問回数を1日3回と設定していると承知している。「1日3回は必要ない人も多く、過剰な診療報酬の請求に当たる」との指摘も。事実関係や入居者のうち1日3回訪問の入居者の割合を聞きたい。
【A】入居者の95%が1日3回以上の訪問。回数は主治医の訪問看護指示書に記載される留意事項等の内容に基づき、適切な訪問看護計画を作成して入居者・家族の同意を経ている。ただ、症状が改善して複数回の必要性が小さい患者、本人や家族の意向で訪問回数を抑える患者もいる。
【Q】入居者の状態に関係なく複数名の訪問としていると承知していて「複数名訪問は必要ない人も多く、過剰な診療報酬の請求に当たる」との指摘がある。事実関係、PDハウス入居者の複数名訪問の実施割合を聞きたい。
【A】9割ほどが複数名訪問を利用している。厚生労働省告示第六十二号の記載に基づくもので、必要性については利用者や家族に承諾をもらい、主治医にも確認している。PDハウス全体では毎月600件を超える転倒ケースがあり、事故を未然に防ぐために複数名訪問が重要。なお、長期的に安定して自立度の高い患者には複数名訪問をしていない。
【Q】看護師1人が夜間に訪問し、数十秒~数分の間、入居者が眠っていると確認した場合、眠りスキャンの画面を事務室で見ただけの場合も、複数名で約30分訪問したことにして診療報酬を請求していると承知している。これは診療報酬の不正請求に当たるはず。事実関係や報酬返還の方針を聞きたい。
【A】そんな事象は不正請求に当たる。過去に一部職員の知識不足で類似例はあったが、その際は請求しなかったり自主返還したりしている。現在は未然に防げるよう、上司による毎月のヒアリング、内部監査部による毎年の監査・内部通報窓口の設置などを行っている。仮にこれから発覚したら返還する。
【Q】訪問時間を基本的に「29分」に設定していると承知している。この点、厚生労働省は「30~90分」を標準として「厳密に言えば30分未満の訪問看護では、診療報酬は請求できない」とする。①「29分」の理由②行政から29分でも請求できるとの見解を得ているか③仮に29分の訪問看護で診療報酬の返還を求められたら応じるか。
【A】①入居者に必要な全ての訪問を行うため、行政からの確認を得たエリアでは居室の移動時間を確保するため「29分」としている(九州は30分)。②管轄の各厚生局に確認した。③確認はしているが、仮に求められたら返還する。
9月20日、特別調査委の設置を発表
共同通信社の報道とサンウェルズの否定コメントから半月を経た9月20日、サンウェルズは特別調査委員会を設置すると発表。調査委は事実関係を調査し、問題があったら原因分析や再発防止策の提言を行う。
委員長は辺誠祐氏(パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)で、委員を池田雄一氏(パートナー PwC リスクアドバイザリー合同会社)とサンウェルズの社外取締役監査等委員でもある中西祐一氏(弁護士 中西祐一法律事務所)が務める。
株価は横ばい基調、出来高は徐々に減少
さて、この間に株価は低迷。9月20日の終値は1,934円で、直近の高値3,095円(8月28日)からみて4割近い下落となっている。報道翌々日の4日からは2,000円前後の横ばい基調で推移している。
今のサンウェルズ株は値動きのある銘柄なので、出来高(=取引が成立した数)は平時よりも多い。ただ、それも徐々に減少している。株式市場としては、真偽のほどが不明なため、ここから積極的に買うわけにも、さらに売るわけにもいかないという様子見ムードが広がっているようだ。
11月6日、9月中間決算の延期を発表
11月6日には、2024年9月中間決算の公表を延期すると発表した(詳しくは下リンク先の記事をご参照)。
11月13日、中間配当ゼロ、期末配当未定に/調査結果の一部(途中経過)も公表
その後、サンウェルズは半期報告書の提出期限を2025年2月にしたい旨の申請をするとともに、2025年3月期の配当について、中間をゼロ、期末を未定にすると発表。特別調査委員会の調査の過程で、どうもクロっぽい行為が見つかったようだと明かした(詳しくは下のリンク【続報③】へ)。
その発表を受け、株価は11月14、15日と2日連続のストップ安に。報道前まで3,000円を超えていた株価は、1,000円を大きく割り込み、800円台に。東京証券取引所は翌営業日(11月18日)の制限値幅の下限を4倍に拡大した(詳しくは下のリンク【続報④】へ)。
新たな動きがあれば、追記するか新たな記事で続報を書きます。