【書評・レビュー】客は「価値」を買う /「なぜか売れる」の公式/理央周(日経ビジネス人文庫)

100円のボールペンと1万円のボールペン。どちらも字を書いたり絵を描いたりする道具である点は同じ。なのに、なぜ、100倍の対価を払う人がいる一方、100分の1の値段で満足できる人もいるのか。

本書で得た結論を言えば、消費者は必ずしも機能で選択せず、感じた価値の大小に対して金を払う。フェラーリを安いと思う人もいれば、プリウスを高いと思う人もいる。モノやサービスを提供する側はターゲットとしてベストな客層に、どうやって価値を伝えるかに頭をひねらなければならない。

いつも要約の文章が長くなりがちなので、エッセンスのみに絞って紹介する。

【要約】まず大切なのは「何を」の設定

モノやサービスを売るには「①何を②誰に③どうやって」提供するか考える。

意外に見過ごされるのが「何を」。よく言う「プロダクト・アウト」の発想に陥ってはいけない。顧客は価値を実感して買うわけで、売り手は自分本位で考えすぎず、まず本当にニーズのある商品・サービスは何かを考える。

この段階をしっかり踏まないと、売れるものも売れない。例えば、初めて入るラーメン店でメニューが15種類あり、店員が「全てオススメ」とドヤ顔をしたら、どう思うか。メニューは多すぎると消費者を混乱させる。「イチオシ」は絞り込んでこそ意味がある。

本書は顧客を「意外にロジカルに考えない」「意外に欲しいものを知らない」性質があると特徴づける。

そういう意味では、売り手が独りよがりになってはならない半面、市場の声を聞きすぎて振り回されてもいけない。自らが市場に提供できる価値は何で、どうすれば市場に伝わり、価値を最大化できるか考える。これがうまく回れば、むやみな価格競争にも巻き込まれなくなる。

ターゲットは「買うと決める人」

次は「誰に」。

購買頻度や時期を分析し、顧客ごとに最適なプロモーションを実行するのは当然。その際のポイントは「実際に使う人」と「何を買うか決める人」が違う場合があることだ。

例えば、キッズ向け自転車に乗るのは子どもだが、購入の決定権者は親だ。

つまり、最終的に自転車の価値を伝えるべきは親である。それならば単純なカッコよさや可愛さだけでなく、ケガを心配する親に対し、安全性やアフターメンテナンスの充実ぶりを分かりやすく強めに訴求する方が効果的かも知れない。

「誰に」と「何を」「どうやって」は関連がある。考える順序は①→②→③だとしても、互いの関係性を意識することが大切だ。

「儲けたい」から離れる

さて、本書はマーケティングを「自然に売れる仕組みをつくること」と定義する。その可否に直接の役割を果たすのが「どうやって」だ。

良い商品・サービスを開発し、適切な顧客層を設定しても、アプローチ方法を間違えると、消費者に届かない。まずは想定客層の生活を観察し、広告活動を展開すべきメディアを選ぶ。媒体は大きく分けて「マスメディア」「自社メディア(ブログやメールマガジン)」「ソーシャルメディア」。PRの文言は簡潔で分かりやすく、想定客層に響く内容とする。

①との関連で大切なのは「売りたい」「儲けたい」という売り手目線からいったん離れ、いま一度、提供できる価値に焦点を合わせることだ。顧客支店こそが中・長期的な成果を生む。

本当の競合相手は?/差別化より「独自化」

さて、よく言う「競合」とは何か。

昔ながらの喫茶店の競合は、コーヒーを出すという意味ではオシャレなカフェだろうが、実はそうとも限らない。

本来の競合相手は安価なコーヒーを販売するコンビニかも知れないし、軽食をとる場所という文脈ではハンバーガーショップかも知れない。一息つく場所として、喫煙所と自動販売機とも競い合っていそうだ。

この見極めを誤ると、実は自社と関連性の薄い相手と戦い、勝手に消耗してしまいかねない。自分の商品・サービスの総合的な価値を見つめ直し、バッティングする先はどこかを注意深く考える必要がある。

もっとも、本来は競合のいないポジション(ブルーオーシャン)をとるのが理想的だ。斬新な何かをゼロから創出する必然性はなく、既存の強みや技術の組み合わせで独自の強みを手に入れることもできる。似たベクトルで機能や価格を競い合うのを「差別化」とするなら、本書では他社と違う土俵で戦う「独自化」を勧めている。

もちろん、新しい市場はニーズが読みにくい。すると、一見して本書の教えが役立たないようにも思える。しかし、自社の強みから提供できる価値を追い求め、ターゲットとする市場(客層)を正確に設定し、効果的なアプローチを考える、という基本的なフローは新たな市場においても通用する。

市場ありき、PRありきではなく、あくまで提供価値から思考を始める意義は、この汎用性を得ることにあると思う。

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