2022年5月1日、あわら市のJR芦原温泉駅西口。特急列車が到着する度、モノトーンの駅舎からスーツケースを引いた観光客が出てくる。ゴールデンウイーク期間の温泉街には当たり前の光景のようだが、前年まではこうもいかなかった。新型コロナウイルスが拡大した影響で、観光客が激減していたからだ。(国分紀芳)
そして前年までと異なる点が、もう一つ。観光客が出てきた在来線「芦原温泉駅」の向こう、在来線駅舎を見下ろすような位置に北陸新幹線の高架があり、新幹線「芦原温泉駅」の外観がお目見えしていることである。

※㊤は以下のリンクから
23年度末には新幹線が敦賀まで延伸する。開業まで2年を残し、芦原温泉駅周辺では延伸に向けた準備が着々と進んでいる。
新幹線駅舎の外観はできており、在来線駅の前では賑わい施設「アフレア」の建設工事が始まった。道を挟んだ向かいでは「ホテルプライムイン福井あわら駅前」の建設が続いている。

同ホテルは富山市、砺波市でホテルを経営する潤観光開発(富山市)が開発する。当初の計画によると、敷地面積は1,200㎡で、8階建て126室。21年4月に着工し、22年春に営業を始めるはずだった。
ところが、現況は写真の通りで、まだ開業していない。
あわら市が21年9月に発行した「広報あわら第211号」によると、現状は22年8月オープンを見込んでいる。新幹線の延伸時期が1年先になり、コロナ禍でベースとなる旅行需要も低調なために急がないというところだろうか。
近年の宿泊者数は右肩下がり
在来線駅と比べれば、新幹線駅の大きさや作り込み方は一回りも二回りも上に見える。そんな新幹線駅が日々完成に近づく様子を見ている地元住民にとって、新幹線開業への期待は大きいだろう。
近年、あわら温泉の宿泊者数は振るわない。
「あわら市観光白書」によると、直近で最も多かったのは2015年の93万人(以下、1万人未満は切り捨て)。16年が88万人、17年が82万人、18年が80万人、19年が75万人で、コロナ前は4年連続で前年を下回り、15年から19年までの間に19%減少した。
コロナ禍の20年は45万人。さすがに参考値として見ざるを得ないが、5年連続の前年割れとなっている。

一般に新幹線開業前の数年間、延伸地域は「どうせなら新幹線が通ってから行こう」と思われ、来訪数が鈍る傾向がある。足元ではコロナという影響度や先行きが見通しにくい要因があり、あわら温泉の新幹線効果を推し量るのは容易ではない。
とは言え、参考までに、時代背景は異なるが、15年3月に新幹線が延伸した黒部宇奈月温泉駅からアクセスできる黒部市の宇奈月温泉の状況を見てみる。
両温泉の条件の違いは次の通り。
あわら温泉 | 宇奈月温泉 | |
宿泊施設の数(旅館組合所属の施設数) | 15軒 | 10軒 |
東京駅から新幹線駅までの所要時間 | 3時間ほど | 2時間20分ほど |
新幹線駅からの距離(道なり、Googleマップによる) | 5㎞ | 13㎞ |
コロナ前(19年)の宿泊者数 | 75万人 | 32万人 |
立地自治体の人口 | 約27,000人 | 約40,000人 |
同市作成の資料によると、新幹線金沢開業直前期の宇奈月温泉の宿泊者数は11年が26万人、12年が28万人、13年が27万人、14年が26万人だった。多少の波があるが横ばい基調で、開業初年度の15年は14年より28.8%多い33万人となった。
19年は上の表の通りに32万人なので、イメージとしては、新幹線開業によって宿泊者数が3割ほど底上げされ、その後は堅調に推移しているようだ。
和倉温泉を抜く可能性???
宇奈月温泉の事例を、あわら温泉にもそのまま援用すると、新幹線延伸後の年間宿泊者数は100万人弱の水準になるとみられる。
ここで「100万人」の持つ意味を考えるため、加賀屋が本拠地とする和倉温泉(七尾市)の宿泊者数の推移を見てみたい。

石川県が毎年まとめている「統計からみた石川県の観光」によると、和倉温泉は県内で最も宿泊者数が多い温泉地(山代、山中、片山津などは地理的に近いが別々にカウント)であり、年間宿泊者数は新幹線金沢開業2年目(16年)からコロナ禍前の19年まで、およそ80万人前後で推移していた。
つまり「アフターコロナ」「ニューノーマル」といった大きな不確定要素は残るものの、単純に過去の事例に沿って考察すると、新幹線延伸後のあわら温泉は、和倉温泉をも凌駕するポテンシャルを持っていることが分かる。
この辺りに、加賀屋が福井県内へ進出した理由がありそうだ。
㊦に続く
“連載【加賀屋、あわら温泉へ】㊥ 新幹線敦賀延伸で宿泊需要は高まるか/駅前ではホテル開発も進む/あわら、今後の伸びしろ大きく” への1件の返信