需要戻っても スタッフ戻らず/北陸の宿泊施設/市況回復の兆しも 手放しで喜べない事情   連載≪宿泊業、天気晴朗なれども波高し≫㊥

「宴会はまだまだでも、宿泊は少しずつ回復してきた。それなのに、肝心のスタッフがいない…」。2022年6月中旬、筆者が出席した金沢市内の会合で、あるホテルチェーンの役員が嘆いていた。嬉しいような、苦しいような、何とも複雑な表情だ。(国分紀芳)

連載の㊤では、コロナ禍で宿泊需要が低調になる中、客室数は増え続けるというギャップを紹介した。㊥では、その宿泊需要に反転の兆しが出始める一方、受け入れ側の態勢整備が追い付かない実情を書いてみる。

連載の㊤は以下のリンクから。

まさかの「3重苦」

2020年初頭からの新型コロナウイルス禍では多方面で企業業績が落ち込み、巷(ちまた)には「希望退職者の募集」「保有資産の売却」など、ネガティブなワードがあふれ返った。

そんな中、宿泊業界は輪をかけて危機的な状況に陥る。その役員いわく、単一機能のビジネスホテルや旅館と異なり、シティーホテルの収益面は「宿泊」「宴会(+婚礼)」「レストラン」の3本柱からなり、事業が多少は分散されているように見える。ところが、コロナ禍では3分野すべてに同時に逆風が吹き、まさかの「3重苦」となってしまった。

金沢駅兼六園口(東口)前の大型ホテル

それまではインバウンド(訪日外国人旅行者)が右肩上がりに増え続け、国内旅行客の需要も高かったという状況から考えると、短期間でまさに天国と地獄を経験したと言える。

石川県の宿泊者数はコロナ前から半減

観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2021年の北陸3県の延べ宿泊者数(速報値)は、コロナ拡大前の2019年(確定値)と比べ、富山県が34.7%減の248万人、石川県が51.9%減の442万人、福井県が43.2%減の235万人だった。

特に落ち込みが大きいのが石川県で、2020年(確定値)と2021年を比較すると、富山県が11.7%(26万人)増え、福井県が8.2%(21万人)減る中、石川県は15.0%(78万人)も減っている。

連載㊤で見たように、この間も金沢市内では宿泊施設が増加を続けた。こうした諸々の事実を総合すると、とりわけ金沢近郊では、大きく減りゆく宿泊客を、増え続ける宿泊施設が奪い合う構図に拍車がかかっていると見ることができる。

金沢駅金沢港口(西口)前のホテル

数十人規模が退職

そんな状況が長期化すると察したのか、冒頭の役員が言うには全国のホテルで大勢のスタッフが離職した。コロナ禍も業績を堅調に伸ばす別業界の会社に再就職した例も多いという。

この荒波の中でも強靭な会社は、きっと今後も成長を続けるだろう。あす、あさって、宿泊需要の回復が鮮明になったとしても、元スタッフたちがこぞって宿泊業に戻ってくると考えにくいのが現状だ。

金沢市内のホテル関係者が語る。「数十人規模でスタッフが退職したホテルもある。そこまでになると、需要があまり急激に回復したら、サービスレベルを維持できず、満足なもてなしをできない可能性がある」

食わねど高楊枝?貧すれば鈍する?

筆者の過去の取材によると、宿泊施設従業員の待遇は世間の平均と比べて恵まれているとは言えないし、サービス業を「下に見る」客も少なくはない。それでも、夜勤や立ち仕事も多い職業を続けさせたのは「もてなし」という仕事へのプライドや働きがいだっただろう。「武士は食わねど高楊枝」である。

そんな宿泊施設が脚光を浴びたのがインバウンド需要の増大期。観光業は国の基幹産業の1つだという認識が広まり、宿泊施設の重要性が理解された。特に新幹線開業後の北陸では、宿泊業は花形産業のようになっていたように思う。有り体に言えば、宿泊業の地位が少なからず上がったのだ。

ところが「貧すれば鈍する」ということもある。2022年6月、加賀市山代温泉で旅館「瑠璃光」「葉渡莉」を経営する「よろづや観光」は、コロナ禍で受け取った雇用調整助成金のうち2,000万円が不正受給に当たると石川労働局から指摘されたと公表した。

石川県内のホテル支配人経験者は「よろづや観光の顛末を見てヒヤリとし『次は我が身か』と身構える宿泊施設は少なくない」と証言する。一方、退職者が出たことで、現場では従業員1人1人の負担が増えているという。「ひずみ」という言葉で表現しきれない諸課題が明るみになってきた。

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新聞やテレビは「宿泊予約が戻ってきた」「インバウンド緩和で追い風」と嬉々として報じるが、それを手放しで喜べない宿泊施設側の事情はあまり知られていない。今、北陸のホテルマンや旅館関係者たちは、凛とした表情の裏で、こうした難しい問題と格闘している。

連載㊦は以下のリンクから。

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